司冬ワンライ・春の便り/花束

吹く風が暖かい季節になった。
今日は公演も一段落し、休みをもらったので久しぶりに散歩をしていたところだ。
「…ほう」
道端をよく見てみれば、春の花がたくさん咲いている。
最近忙しくて見落としていたが…たんぽぽ、シロツメクサ、オオイヌノフグリ、ホトケノザ、カラスノエンドウ…花屋に売っているそれには負けるが、これはこれでキレイだ。
そういえば昔、冬弥に花束を作ってあげたことがあったな、と思い出す。
あれは確か彼のピアノの発表会の後。
賞を貰ったのに嬉しそうではなかった冬弥に、司は考えて考えて野花で花束を作ったのだ。
目を見開いた冬弥はぎこち無く「…ありがとう…ございます」と微笑んでくれたのである。
その時、妙に嬉しかったのを思い出した。
あの時は分からなかったが、あれは単純、冬弥に恋をしていたのだ。
両想いになった今なら分かる。
「…そうだ」
司はしゃがみこみ、花を摘み始めた。
バイトを始めた今なら花屋でもっと良い花束を買うことができるだろう。
けれど。
「よし、出来たぞ!」
司は満足げに笑う。
そうしてそのまま、彼がいるであろう公園に向かった。


「おぅい、冬弥!」
「…司先輩?!」
手を振ると、冬弥が驚いた顔をする。
この時間は自主練習の時間だと言っていたからちょうど良かった。
「どうしたんですか?」
「いや、この前のイベントで優勝したと言っていただろう!ほら、これ」
司は作ったばかりの花束を手渡す。
ふわ、と破顔させた冬弥は、ありがとうございます、と言った。
その笑顔に、やはり好きだな、と思う。

小さな春の便りと共に、再びキミに恋をしよう。


「あれ、冬弥くん、可愛い花束だね?どうしたんだい」
「カイトさん。…好きな人から、頂いた大切な贈り物なんです」

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