アカカイバースデー

「…ぅ……」
眠っていたカイコクが目覚め、アカツキは「おはよう御座います!」と明るく声をかけた。
「…いり、で?」
「はい!入出ですよー!」
ぽや、とした表情で首を傾げるから、アカツキはにこにこと笑ってみせる。
彼がこんなに気を抜いているのは珍しかった。
普段は馴れていない猫のように警戒しきっているのに。
「大丈夫ですか?カイコクさん。随分ぐっすり眠っていたようですけど」
「…まだ頭がボーッとしてる」
「それは…大丈夫ではないですね」
顔を顰めるカイコクに、アカツキは笑う。
そうして水の入ったペットボトルを差し出した。
「ん、どうもな」
「いえいえ!」
素直に受け取ったカイコクが蓋を開け、口元に運ぶ。
こくん、と音を立てて飲まれる、それ。
「カイコクさん」
「…ん、なんでぇ」
名を呼ぶと、カイコクはきょとんとする。
軽く首を傾げる彼の、キレイな髪がふわりと揺れた。
「今日は何の日でしょう!」
「…今日?」
よくあるような質問を投げ掛ければ、カイコクは目をぱちくりと瞬かせる。
普通ならば非常に簡単な質問だ。
だが、ゲノムタワーには時計もカレンダーもない。
ただ、提供されるままに食事を取り、区切りのアナウンスでゲームに参加したり、自由時間を過ごしたりするのだ。
日々を過ごすことに支障はないが、自覚してしまえば発狂する恐れだって孕んでいる。
それでも敢えて聞いてみたのは、純粋に気になったからだ。
「あー…俺や逢河の誕生日は終わったんだよな。ひな祭りもやったし…んー…?」
真面目に考えてくれるらしいカイコクに、アカツキは律儀だなぁと思う。
軽く流したって良かったのに。
「…あ、エイプリルフールか?」
「あ、それもあります!…知ってました?エイプリルフールって嘘吐いて良いのは午前中だけらしいですよ!」
わくわくして言うアカツキに、カイコクは笑う。
楽しそうだな、なんて思っていれば、ずい、とそのキレイな顔が近付いてきた。
「カイコクさん?」
「…なーんてな」
「へ?」
にや、と笑った彼が言葉を紡ぐ。
「お前さん、誕生日だろ」
「…覚えててくれたんですか」
「まあな。…あー」
驚くアカツキに、カイコクは少し目をそらしてから柔らかく笑った。
手を伸ばす、彼の言葉が耳に入る。
綺麗で温かな手が頭に触れ…。

「入出。…誕生日……」

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