司冬ワンライ・ファッションショー/クローゼット

隣の部屋から己を呼ぶ声がする。
「お兄ちゃーん!」
「どうした、咲希ー!」
「お母さんがね、クローゼットの中片付けてってー!」
「…クローゼット?」
妹のそれに司は首を傾げた。
何か散らかしてしまっていただろうか。
疑問はあるが、言われるがままにクローゼットに向かう。
そこにはぺたんと座った咲希がいた。
「ほら、昔お兄ちゃんがとーやくんとここで遊んだって言ってたでしょ?その時に、そのままにしててーって言われてお母さんもそのままにしてたんだって」
「…母さん、本当にそのままにしていたのか」
笑いながらの言葉に、司はようやっと思い出す。
まさか本当にそのままにしていてくれていたなんて。
「ねぇねぇ!アタシ、クローゼットのある部屋で遊んだことしか知らないんだけど、どんなことをしたの?」
わくわくする咲希に、司はそうだなぁと上を向く。
あれはそう、桜が咲く季節のことだった。


「ファッションショー、ですか」
「ああ!!みらいのスターたるもの、きらびやかでなくても、かんきゃくをみりょうせねばならない!そうだろう?!」
自信たっぷりに司が言う。
首を傾げていた冬弥も小さく頷いた。
「…司、さんなら、できるとおもいます」
「はーっはっはっはっは!そうだろうとも!…たとえば…そうだな、この白のスカーフを…こうして…」
少し大きいスカーフを首に巻き、マントのようにする。
ブローチを付け、髪をサイドに分けておもちゃの剣を持てば、騎士の完成だ。
「どうだ?!かっこうよいだろう!」
「…!はい、かっこうよいです!ほんもののきしさんみたいですね」
「そうだろうとも!…さて、冬弥にはなにがにあうか…」
キラキラと目を輝かせる冬弥に、司は当然とばかりに頷いた後、ふむ、と考える。
冬弥は騎士というより王子の方が似合うのではないだろうか、なんて思いながらクローゼットを探った。
いや、王子ともまた違うかもしれない。
彼は、そう…。
「…あっ、あの!僕は、その…」
「?なぁに、えんりょすることはないぞ!」
慌てる冬弥に司は笑い、引っ張り出してきたレースのハンカチーフを、広げた。
髪を左右に分け、それを被せる。
咲希が持っていた小さな髪飾りで留めた。
「おお、にあっているぞ、冬弥!」
「え?え??」
「さぁ、ファッションショーのはじまりだ!」
困惑する冬弥の手を掴む。
先に歩いていってターンし、ニッと笑った。
「いまのオレはきしだからな、冬弥のことをまもってやる」
「…!司、さん」
「だが、冬弥もおとこだ、まもられたくはないかもしれん。…だからな」
掴んだ手をぎゅっと握り直して司ははっきり宣言する。
ふわりと冬弥のレースが、揺れた。
「オレは、このランウェイで冬弥としあわせをつかむぞ!」




「…そんなことしてたんだぁ」
「……していたんだなぁ、これが」
咲希のそれに、司は息を吐きながらハンカチーフを畳む。
次に来たときにまたやりたいから、と置いていてもらったのだが、それ以来やった記憶がないから、他に夢中になっていたのか、来なくなっていたのか。
「そういえば、とーやくんはなんて返事したの?」
「ん?」
咲希の疑問に司も首を傾げた。
何故返事が重要なのだろう。
「だって…」
彼女が笑う。
その言葉に、司は大きな過ちを、知った。



それはファッションショーというより、結婚式。



クローゼットに仕舞いこまれた思い出は、ひらめくレースのハンカチーフと共に蘇った。



「…あ、その時の写真ないか、お母さんに聞いてみよーっと!お母さーん!」
「待て待て待て、咲希!!」

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