夢で逢えたら(しほはる、エイプリルフールネタ)

よく分からない夢をみた。
怒涛のような展開に、志歩は目覚めてからも暫く呆然としていて。
姉の声にようやっと体を起こす。
「おはよう、しぃちゃん!…あら?何だか疲れてない?大丈夫?」
「大丈夫だよ、お姉ちゃん」
出会い頭、心配そうにする雫に志歩はそう返して食卓についた。
まさかよく分からない夢のせいで疲れたのだ、とも言い辛い。
美化委員があるから、と先に出た姉にひらひらと手を振り、志歩は夢の内容を思い出していた。
「…なんで私がアイドル…?」
朝食を食べ終わり、身支度を済ませ、家を出てからも志歩は疑問が止まらず、遂に首を傾げる。
雫に、クラスメイトのみのり、姉の友人である愛莉…と現役アイドルである彼女たちと最近よく話をするからだろうか、夢の中の志歩は何故だかアイドルをやっていた。
それも、雫はともかく、バンドメンバーの一歌や咲希、穂波、それからクラスメイトのこはねではなく、こはねの相棒である杏と、顔は覚えていないが銀髪の綺麗な人(一歌や穂波が話していた宵崎さん、かもしれないと思った)がメンバーだったのも不可解なことの一つだ。
まあ夢というのはそういうものなのかもしれないけれど。
「…あれ」
「……どうして…」
少し前を歩く、青い髪の少女に志歩は首を傾げる。
何か悩んでいそうな彼女に、志歩はとん、と肩を叩いた。
「どうかしたの、桐谷さん」
「…!日野森さん!おはよう」
驚いた顔の遥がややあって微笑む。
相変わらず綺麗に笑う人だな、と思いつつ志歩はおはようを返した。
「それで?何か悩み?」
「…あ…悩み、というか…大したことじゃないんだけど…」
「…。…まあ、いいけど。そんな顔してたら、一歌や咲希、みのりがすごく聞いてくるよ。後、お姉ちゃんも」
「…!そっか、そうだよね」
志歩の言葉に、遥は目を見開いた後、僅かに笑う。
それから、聞いてくれる?と首を傾げた。
別に問題もなかったから躊躇いもなく頷く。
「ありがとう。…えっと、今日みた夢の話なんだけどね、アイドルを辞めた後、ショーキャストをしてたんだ」
「…え…」
「鳳さんやこはねが一緒なのはわかるんだけど、何故かその夢に朝比奈先輩もいてね、イメージがなさ過ぎて凄く不思議になっちゃって…」
照れたように言う遥に、一緒だと思わず声が出てしまった。
「え?」
「あー…。…私も、アイドルになる夢をみたんだ。お姉ちゃんや、白石さん、後多分穂波の知り合いの人と一緒に」
「杏も?ふふ、イメージないなぁ」
驚いた遥がくすくすと笑う。
確かにストリート音楽をやっているらしい杏にアイドルのイメージはないかもしれないけれど。
「逆にこはねはショーのイメージ出来るかもね。ほら、臨海学校で劇してたし」 
「あ、確かに。そのイメージだったのかな?だったら朝比奈先輩じゃなくて、天馬さんか望月さんになりそうだけど…」
「二人とも演奏担当だったからじゃない?」
「それもそっか。…聞いてくれてありがとう、日野森さん」 
遥がふわりと微笑んだ。
大したことはしてないよ、と言う志歩にまた微笑んだ遥は、ほんの少し上を向く。
「でも、アイドルの日野森さんも見てみたかったな」
「…絶対に無理。咲希や鳳さんならともかく、私は向いてない。…お姉ちゃんを傍で見ててそう思うよ」
「…」
「アイドルは全身を使ってファンに希望を届けるでしょう。私は無理。演奏でしか表現できない」
「…それも凄いと思うけどな」
お世辞ではないそれに、志歩も素顔に礼を言った。
遥の言葉は適当に流せなくて何ともむず痒い。
「私は、ショーキャストの桐谷さんの方が気になるけどね」
「そう?…アイドルもショーキャストも根幹は似てるかもしれないけど、やっぱり違うもの」
「…そういうものなんだ?」
「そういうものだよ」
ふふ、と遥が嬉しそうに笑った。
楽しそうだな、と思いながらも志歩は、でも、と言葉を続ける。
「実際にやるやらないは置いといて、ショーキャストの衣装着る桐谷さんは見てみたいかも」
「え?」
きょとんとする遥に、ほら、と以前行った時に撮ったマリンルックのキャストを見せる。
「これとか、桐谷さんに似合いそう」
「あ、私も知ってる!可愛いよね」
「うん、桐谷さんってなんだか海とか水のイメージあるんだよね。だからこういう系統似合いそうだなって」
「そうかな。でもありがとう。今度の配信で似たような服探して着てみようかな?」
「いいんじゃない?」
そう頷いてから、やはり少し違うかも、と思った。
これを着る遥は見てみたいが、みんなに見せるのは違う気がして。
これは、何というか。
「…あ、やっぱり待って」
「え?」
「配信では着ないで欲しい…と、いうか、何というか…」
首を傾げる遥に志歩はゴニョゴニョとそう言う。
暫く首を傾げていた遥はにこ、と笑い「分かった」と言った。
「え」
「その代わり、日野森さんにもアイドルの衣装を着てほしいな。…ほら、これなんだけど、さっきの衣装と合わない?」
「…まあ、合うとは思うけど…」
「じゃあ決まり。今度の配信の時に持っていくね。配信終わったら声かけるから、その時…」
画面を見せられ(割とボーイッシュなそれだった)曖昧に頷けば遥は嬉しそうに計画を話し始める。
慌てて待ったをかけた。
「…?日野森さん、どうしたの?」
「いや、どうしたのって…その服、着るのは良いけどそれだけだよ?着てダンスしたりしないし、出かけるのもしない」
「うん、そのつもりだけど…」
きょとんとする遥に志歩は意外で。
てっきり何処かに出かけたりライブ映像にあわせて踊ったりしてほしいと言うのかと思っていた。
素直に言えば遥は楽しそうに笑う。
「日野森さんに踊ってもらうなら私もショーをやらなきゃ。それにお出かけは楽しそうだけど出来れば最初は着慣れた服が良いかな」
「…そっか、なら良かった」
ホッとして少し空を見上げた。
衣装によく似たマリンブルー。
「じゃあ、夢でみたショーキャストの桐谷さんに逢えるんだ」
「ふふ。私は、アイドルの日野森さんに、だね」
二人して顔を見合わせ、思わず笑い合った。


夢でみた、夢の彼女と現実の彼女が重なる


夢で逢う事はなかったけれど、きっと今みたいに楽しいだろう


今みたいに共通の友人を通して知り合って

好きなものが一緒だからこうやって話したりして


…ねぇ、夢で逢えたら何がしたい?


(夢で逢えたらいつかきっと)





「…桐谷さん、ごめん。衣装について聞いてたらうっかり鳳さんに話しちゃって…。サンプル残ってるから貸してあげるって本物を借りた…」
「日野森さん、私も…その、衣装について聞いてたら愛莉に話さざるを得なくて…。ツテから当時のものを借りちゃった…」

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