司冬ワンライ/祝春ウサギ・幸福を君に

今日はイースターだ。
フェニックスワンダーランドでも今日限りのイベントが行われている。
そのため数日前から準備、当日はそれに掛かりきりで、休憩する暇もなかった。
「…何とか無事、今年も終えることが出来たな」
ふぅ、と息を吐き司は空を見る。
入念な準備のお陰でイベントは大成功、来てくれたお客は皆良い笑顔をしていた。
それを思い出して司は小さく笑う。
「…司先輩」
「おお、冬弥!すまない、待たせてしまったな」
待ち合わせをしていた冬弥に大きく手を振れば、小さく微笑んだ彼は首を傾げた。
「先輩、まだ着替えていないんですか?」
「む、準備万端で来たぞ!何かおかしい所があったか?」
「…いえ、おかしい所と言いますか…頭にうさ耳が」
「うさ耳?…あ」
言葉を濁す彼に己の頭上に手をやればまだうさ耳が揺れていて。
そう言えば外すのを忘れていたかもしれない。
今日のイベントはキャスト扮するうさぎにイースターエッグを渡すことでグッズ付きお菓子と交換出来る、というものだったのだ。
ショーキャストである司達も例外ではなく、また、ただ交換するのも面白くないので逃げ回っていたのだ。
そのせいで疲れ過ぎてそちらに気が回っていなかったのだろう。
外そうとして、ふとまだ回収出来ていなかったイースターエッグが目に入る。
明日には従業員によって回収されてしまうそれ。
「なぁ、冬弥!知っているか?イースターエッグを見つければ幸せになれるんだぞ」
「?そうですね」
「しかもだ!今年はこのオレ!春を告げる幸せのうさぎが隠したイースターエッグだぞ!見つけてみたいとは思わないか?」
「…それは素敵ですが…イベントは終わっていますし…俺は、こうして司先輩といられることが幸せですから」
「…冬弥……」
柔らかく微笑んだ冬弥に、思わずぽかんとしてしまった。
まさか冬弥からそんな幸せなことを言われてしまうなんて。
「オレも冬弥といられて幸せだ。だが、もっと幸せになってほしいと願うのは悪いことではないだろう?」
見つけたイースターエッグを手に取り、す、と跪いた。
イースターエッグを差し出され一瞬びっくりしたような顔をした冬弥がふわりと微笑む。
「…うさぎさんから直接イースターエッグを受け取った俺はすごく幸せ者ですね」



柔らかく微笑んだ冬弥に、司も幸せになる。

今日はイースター。
春を祝ううさぎが、大切な人に幸福を届ける日。

(うさぎさんは、そんな彼から幸せをたくさんもらっているのです!)



「…あ、えむ。司いた?」
「うん!うさぎさんの仕事をしてたから、そのままにしてきちゃった!!」
「…ああ、なるほど。…いやぁ、春だねぇ」

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