貴女がくれたファンサービスに

「…はぁ」
遥は小さく溜息を吐く。
それは少し前から悩んでいることについてだった。
こんなにも悩むのは久しぶりである。
だって、それは。
「…あれ?遥じゃん!久しぶり!」
「…杏?」
明るい声に顔を上げると幼なじみである杏がいた。
にこにことする杏は幼い頃から変わっていなくて、自然と笑顔になる。
「どうしたの?なんか悩んでる?」
ひょいと覗き込む杏にズバリを当てられて目を見開いた。
やはり幼馴染には隠せないらしい。
仕方がないので素直に打ち明けることにした。
…聞いてもらうことで別の視点からの気付きもあるかもしれないし。
「うん、ちょっと聞いてくれる?」
「もっちろん!じゃあ何処か座って話そ。あそこの店とかどう?」
杏に手を引っ張られ、連れて来られたのは有名なファーストフード店だった。
「いらっしゃいま…あれ?桐谷さん?白石さんも」
「…星乃さん?」
「わっ、一歌ちゃん!制服可愛いねー!」
カウンターにいたのは一歌である。
そういえば彼女はファーストフード店でバイトをしていると言っていたっけ。
「ありがとう。…ご注文は?」
「あ、えっとねー」
小さく笑った一歌に注文を伝え、席を選んで座る。
「それで?どうかしたの?」
「うん。…みのりの誕生日があるんだけど、プレゼントを何にしようか悩んでて」
首を傾げる杏にそう打ち明ければ、きょとんとした彼女は、何だそんな事、と笑った。
「…そんな事って」
「ふふ、ごめんごめん。んー、何もらっても喜びそうだけどなぁ」
ムス、とすれば軽く笑った後、ほんの少し上を向く。
「…そうなの。だから困ってるんだけど…」
ふう、と息を吐き、そう言った。
きっとみのりは何をあげたって喜んでくれるだろう。
でもそれでは駄目なのだ。
みのりは、特別だから。
一番喜んで貰えるものを渡したい、そう思う。
「まあ気持ちは分かるけどさぁ」
「…杏はこはねに何をあげたの?」
「私?私は、こはねからオリジナルカスタマイズの飲み物を考えてもらって凄く嬉しかったから、同じようにこはねイメージのオリジナルの飲み物を考えて出したんだ」
「へぇ。杏らしいね」
「でしょー??」
えへへ、と笑う杏に愛されてるんだなぁと遥も微笑んだ。
「おまたせしました」
一歌が注文したそれを持ってやってくる。
その姿はもう制服姿ではなかった。
「あれ?もう終わったの?」
「うん、ちょっと早いんだけど、お友だち来てるなら上がって良いって」
ふわ、と微笑み、「お邪魔して良いかな?」と言う。
「もちろん!」
「ありがとう。…何の話してたの?」
席に着いた一歌が首を傾げた。
その内容を説明すれば、杏と同じように笑う。
「…星乃さんまで…」
「ごっ、ごめん!みのりなら何でも喜んでくれそうだなって思って…」
「だよねぇ!!」
謝る一歌に、杏がけらけらと笑った。
「…星乃さんは、日野森さんに何をあげた?」
「私?…えっと、志歩からオリジナルのピックをもらって、すごく特別感があったから、私もそうしたよ。持ちやすさとか、模様とか、拘れたから」
「へぇー!良いじゃん!やっぱり、自分がもらって嬉しかったものは相手にも渡したくなるよね!」
杏の言葉に、そうか、と思う。
みのりから、もらって嬉しかったもの。
それは…。



『今日はありがとう!みんな、まったねー!』
4人笑顔で手を振り、配信を終える。
今日はみのりのバースデー配信だった。
「…みのり」
「遥ちゃん!お疲れ様!今日は本当にありがとう!」
「うん。…あのね、みのりに渡したいものがあるの」
「え?皆からプレゼントはもうもらったよ?」
きょとんとするみのりに、遥は「あれは3人で、だよ」と笑う。
「これは私個人から。…受け取ってくれる?」
「えぇっ?!もっ、もちろんだよー!凄く嬉しい!!ありがとう、遥ちゃん!」
満天の笑顔で差し出したそれを受け取ったみのりは中をそっと見て固まってしまった。
「…あ、あの、遥ちゃん、これ…」
「…みのり、私の誕生日にファンサをくれたでしょう?だから、私も返したいな、と思って」
あわあわするみのりの手を両手でぎゅっと握る。
遥が贈ったのは、握手券付きのオリジナルCD。
「みのりのために歌った曲ばかりなんだ。後で聴いてね?」
「もちろん、絶対に聴くよ!それから家宝にする!」
「あはは、ありがとう。…あのね、みのり」
「はっはい!」
「一人で歌うと凄く寂しかったし、物足りなかったんだ。だから…これからも、一緒に歌ってくれる?」
にこ、と微笑む。
みのりに、大切な人に向けて。


一生傍にいるね!なんて、返されてしまうまで、あと数秒。

今日はみのりの誕生日!


「相変わらずプロポーズしてるわね、二人は…」
「あら、仲が良いって素敵じゃないー」

name
email
url
comment