イースター取り止め計画

「…なぁ、忍霧」
「?どうした、鬼ヶ崎」
そろそろカイコクが自分のベッドにいても違和感がなくなってきたある日のことだった。
何やら真剣な声音の彼女にザクロも首を傾げながら読んでいた本をぱたんと閉じる。
先程まで寝転んでいたカイコクがベッドの上で正座をしながら思い詰めたようにこちらを見つめていた。
彼女がそんな顔をするなんて珍しい。
「…あの、提案が…あんだけども」
「…何があった」
「…。…笑うなよ?」
「笑ったりはしない。…なんだ」
念を押してきたカイコクに頷けば彼女はすうと息を吸った。
「…イースターを、取りやめねぇか」
「……は?」
笑わないと言ったが思った以上に突飛もない話に、ザクロはぽかんとする。
何だってそんな急に。
「イースター…確か外国の、春を祝う行事だろう。うさぎがイースターエッグを隠す、とかいうあの」
「そうでぇ。…お前さんも何だかんだ託つけてやっていたよな?」
「…それは否めないが」
カイコクの探るようなそれに思わず素直に頷く。
確かに、ザクロもイースターに託つけて彼女にうさ耳を着けたりなんだりかんだりしていたが。
「…で、それを今年は廃止する、と」
「ああ」
「何故だ?」
こくりと頷くカイコクに素朴な疑問をぶつける。
別に行事は嫌いではなかったはずだが。
少し言い淀んだ彼女は枕を盾に何やらゴニョゴニョと言い訳した。
「…鬼ヶ崎、もっとはっきり…」
「…だからっ!いい加減、恥ずかしいだろぅ…」
「……はぁ??」
耳まで紅く染めて言い訳する彼女にザクロは呆けた顔をしてしまう。
まさか、カイコクから恥ずかしいが出るなんて。
笑わないと言った手前ニヤけることしか出来ず、ザクロはマスクを着けていて良かったと心底思った。
「…お前さん、笑ってんだろ…っ!」
「笑っていない、笑っていない…っ」
だがカイコクにはバレていたらしく、詰め寄ってくる。
思わず顔を背けた。
「わかった。イースターは俺達の間では廃止だ」
「!本当かい?!」
「ああ。…別にイースターをしなくても春は訪れるからな」
ぱあ、と表情を明るくするカイコクに頷いてやる。
そう、春は来るのだ。
別にイースターには関係なく。


季節は巡る。
一緒にいれば何度だって。

イースター以外にもうさぎに関係する日にうさぎになってもらえば良いし、というザクロの邪な思いをカイコクはまだ、知らない。

「…鬼ヶ崎はうさぎより猫の方が似ているからな」
「んー?なんか言ったか?」
「いや、何も」

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