司冬ワンライ・きらきらひかる/ピアノ

久しぶりにピアノを人前で弾いた。
手のひらを見つめてグッと握り込む。
息を吐いた瞬間、色んな思いが流れ込んできた。
別に大層緊張したというわけでもない(そも、司は緊張も楽しむタイプだ)
ただ、誘ったとはいえ冬弥がピアノメインのショーを見に来てくれるとは思わなかった。
一時期は、ピアノを見るのすら嫌がっていたほどなのに。
良い仲間に恵まれたのだなぁと思う。
「…司先輩」
「冬弥!すまんなぁ、呼び立ててしまって」
「いえ。…それで、何かあったんですか?」
こてりと首を傾げる冬弥に、実は、と切り出した。
「この前、トルペのショーをやっただろう。久しぶりにピアノを弾いたのだが楽しくてなぁ。それで、咲希と共に家で発表会をしようと思うのだが…どうだろう、聴きに来ないか?」
恐る恐るそう言えば冬弥は、ぱあっと表情を輝かせる。
その顔に、ほんの少しだけホッとした。
「是非!先輩と咲希さんのピアノ、とても楽しみです」
「そうか!冬弥が来るならきっと咲希も喜ぶぞ!」
心底嬉しそうな彼に、司もそう言う。
無理をしているなら止めようかとも思うがどうもそういう感じでもないようだ。
「…あの、司先輩」
「ん?どうした?」
「…。…その発表会には他の人たちも呼ぶんですよね?」
そっと聞いてくる冬弥に、司は素直に答えた。
咲希も一歌たちバンドメンバーを呼ぶようだし、司もえむや寧々、類を呼ぶつもりでいる。
そう言えば、「そう、ですか…」と冬弥は曖昧に言った。
「?どうかしたのか?」
「…あ…いえ、大したことでは…」
「何か言いたいことがあるなら言ったほうが良い。…溜め込んでいても良いことはないからな!」
自信満々にそう言えば、冬弥は少し目を見開いた後柔らかく微笑む。
「…司先輩のピアノは、俺にとってきらきらと輝いていて…聴いていてとても心地が良いので、他の人にも聞いてもらえるととても嬉しいです。…だからこそ、少し寂しいと思いました」
「…ほう?」
「昔、俺の為にリサイタルを開いてくださったのが嬉しかったんです。あの頃からピアノは苦痛でしたが、先輩のピアノはいつでも蜂蜜のように甘くて星のように煌めいていましたから」
「…。…なるほど」
冬弥のそれに司は頷き、ニッと笑った。
「よし。冬弥、今から時間はあるか?」
「え?あ、はい」
「そうと決まれば音楽室だ!一曲、可愛い冬弥のために演奏しよう!!」
笑いかけ、司は冬弥の手を引く。
彼がそこまで好いてくれるなら、彼の為だけに演奏しよう。


夜の星より煌めく演奏を、冬弥に!


きらきらひかる

おそらのほしよ

まばたきしては

(お前だけを見ている)

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