司誕生日

「…なぁ、咲希」
「んー?なぁに、お兄ちゃん!」
司の呼びかけに、スマホから目を離した咲希がひょいとこちらを覗き込んでくる。
首を傾げる彼女に、先程から悩んでいることについて聞いてみることにした。
「冬弥から誕生日プレゼントを渡したいと言われてな、何が良いかと迷っているんだ」
「えー?お兄ちゃんが欲しいもので良いんじゃないの?」
「今特別欲しいものは無いし、それに欲しいものは自分で手に入れてこそ、だろう?冬弥から貰うものは何でも嬉しいしなぁ…」
「あははっ、お兄ちゃんらしいよね!」
可愛らしく笑う彼女は、少し天井を見上げると、あ、と言う。
「とーやくんと一日デートは?」
「それも考えたは考えたが、普段と変わらんような気が…」
「確かにそうだよねぇ。うーん、そうだなぁ」
「オレは貰うより渡す方が好きだしなぁ」
「お兄ちゃん、生粋のエンターテイナー、未来のスター!だもんね」
咲希が明るく笑う。
その後、少し悪い顔になった。
「じゃあもういっそ、お前が欲しいー!くらい言っちゃえば?」
「まあそれはまた特別な日に言うが」
「あ、言う予定はあるんだね?」
さらっと返せば咲希も何かを納得したようだ。
司も冬弥も男同士だが彼女はそんなこと関係ないらしい。
好きなお兄ちゃん、が好きな友人、と一緒になって幸せ!くらいだろうか。
「お兄ちゃんは、とーやくんにあげた中で一番これだ!っていうのはないの?」
「ん?あぁ、そうだな…。…やはり、ショーだな!」
咲希の疑問にそう答える。
彼は司のショーが好きでいてくれていて、司も事あるごとにショーをしているのだ。
その答えにじゃあ!と彼女は表情を輝かせた。
「お兄ちゃんもとーやくんから歌を貰えば良いよ!」




「…俺の…単独パフォーマンス、ですか」
冬弥がぱちくりと目を瞬かせる。
ああ!と大きく頷く司に、少し悩んでから「分かりました」と言ってくれた。
「しかし、何故」
「いや、冬弥はよくオレのショーを見に来てくれるだろう?」
「はい。先輩のショーが好きなので」
「嬉しい事を言ってくれる。…だが、オレはあまり冬弥のイベントを見たことがない事に気づいてなぁ。仲間たちとのパフォーマンスも素晴らしいだろうとは思ったがやはり冬弥一人のパフォーマンスも見てみたいと思ったんだ」
そう言えば、冬弥は嬉しそうに微笑む。
やはり、得意分野である歌を届けるのは嬉しいのだろう。
「今からではライブイベントに申し込むと時間がかかるので…路上パフォーマンスでも良いでしょうか?」
「ああ!観客は大勢いる方が良い」
冬弥のそれに頷き、ぐいっと手を引いた。
それから彼に囁く。
頬を染める冬弥に笑って肩を叩き、楽しみにしている、と告げた。


きっと、素晴らしい誕生日に、彼はしてくれるだろう。
司の囁きの通りに。


「…今そこで歌っている冬弥の歌声も何もかもがオレだけに向けられたものだと、…オレは知っているからな」

(観客が大勢いる中、熱い冬弥の歌声と視線の先は


司だけが知っている)

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