司冬ワンライ・あじさい(ハイドランジア)/色が変わる

通学路に紫陽花が咲いていて、司はもうそんな時期なのだなぁと思う。
濃い青と薄い青のツートンは何だか隣にいる彼のようで思わず笑ってしまった。
「…?司先輩?」
「ああ、いや、すまん」
不思議そうな彼に謝って司はほら、と指をさす。
「…紫陽花、ですね」
「ああ。あの花が冬弥のようだな、と思ってなぁ」
「紫陽花が、俺、ですか?」
再びきょとんとするから、司は笑いながら頷いた。
「集真藍、藍色が集まるという意味から昔はそう呼んだらしい。雨に濡れてなお美しい花は冬弥に似ていると思わないか?」
「…そうでしょうか…」
司のそれに、冬弥自身はあまりピンときていないらしい。
謙虚だと思っていたが、彼が悩んだのは違う理由のようだった。
「…青の紫陽花の花言葉は、あなたは美しいが冷淡だ、という意味があるそうです。…俺は、冷淡であるつもりはないのですが…」
「何だ、そんなこと!」
少し目を伏せる冬弥のそれに司は笑い飛ばす。
大方、誰かにそう言われでもしたのだろう。
まったく、真面目で可愛らしいのだから!
「確かに、青の紫陽花にはそういう意味もある。青は冷たいイメージもあるから、冷淡だ、などと言われてしまうのだろう。…だが、紫陽花はそれだけではない」
司は、冬弥の手を握った。
そうして、なあ、と囁く。
「…冬弥、愛している」
「…!司、先輩?」
「他人からは冷淡に見えてしまうほど美しいお前も、中身は熱いものがあることを、オレは知っている。知っているからこそ敢えて言おう。…オレはお前の、青柳冬弥の全てを愛している、と」
「…っ!!」
「もちろん、可愛らしいところも、柔らかい部分も含めて全てだ。…愛しているぞ、冬弥」
司は微笑し、ピンク色に染まった彼の耳をすり、と触った。
「…、せん、ぱ…」
「…色が、変わったな」
小さく囁き、司は言う。
ぽたり、と水滴が地に落ちて跳ね返った。

青の紫陽花には、あなたは美しいが冷淡だ、という意味がある。
だが、色が変われば意味も変わるのだ。
緑はひたむきな愛。
紫は神秘的。
白は寛容。
そうして、ピンクは。


「…どんな色も綺麗だが、この色を持つ冬弥は特別に愛おしく思うぞ」

司は笑う。

強い愛情を与えられた、紫陽花は、それはそれは美しいと、そう、思うのだった。

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