司冬ワンライ・雨上がり/虹をかけて

今日は朝のニュースで雨が降ると言っていた。
だから帰る間際になって降り出しても、そんなに落胆はしなかった。
そも、司は別に雨が嫌いなわけではない。
新しいレイングッズが下ろせる、と咲希も喜んでいたし、雨模様もそれはそれで風情がある。
それに、雨が上がった後の空の美しさを、司は知っていた。
その為ならばまあ、と思いながら司は持ってきた傘を開ける。
しばらく歩いたところで、見覚えがあるツートンカラーの後ろ姿を見かけて司はぎょっとした。
慌てて駆け出し、「冬弥!」と呼びかける。
「…っ!司先輩!」
「傘も刺さずにどうしたんだ!風邪をひいてしまうぞ?」
驚いた様子の彼に言えば、へにょりと困ったように笑った。
「…すみません。…クラスの女子が困っていたので…」
「まったく、優しいな、冬弥は。だが、それで自分が濡れてしまってはその女子も心配するだろう?」
「そう、ですね」
少し眉を下げる冬弥に、司は息を吐き、いつものような笑みを浮かべる。
別に冬弥を叱っているわけではないからだ。
「まあ、この天馬司が来たからにはもう安心だ!!良ければ、家まで送るぞ?」
「…!そんな」
「なぁに、遠慮するな!それに、前にも同じシチュエーションがあっただろう?」
そう言うと冬弥はきょとんとする。
やがて思い至ったのかくすくすと笑った。
「そう、でしたね」
「あの時も傘がなかったな、冬弥は」
「はい。それから、先輩が傘を差し出してくださいました」
「そうだった。それからうちで雨宿りをしたんだったな」
「…帰ってきた咲希さんに驚かれてしまいました」
二人でくすくす笑いながら思い出話に花を咲かせる。
あの時はああだったとか、今日はこうだとか言いながら歩いていると次第に傘に当たる雨粒が少なくなっているのに気づいた。
「…おお、止んでいたのか」
「…。…気付きませんでしたね」
傘から手を出し、滴が落ちてこないのを確認すると司は傘を閉じる。
いつの間にか灰色の空からは光が一筋降り注いでいた。
「天使のはしご、ですね」
それを見た冬弥がニコリと笑う。
柔らかで美しい笑みの彼はまさに天使。
「ならば、冬弥はオレの天使だな!」
思っているだけでは伝わらない、と司は言葉にして冬弥の手を握った。
目を見開いた冬弥は再び笑みを浮かべる。
そうして。
「…それなら、司先輩は俺の虹、ですね」
「うん?虹?」
「はい。虹です」
くすくす笑う冬弥を不思議に思いつつ振り返る。
そこには大きな虹がかかっていたのだった。


雨上がりの後、柔らかな日差しと共に現れる虹のふもとには、大切な宝物が!!

(それは雨上がり後の、二人きりの秘密の話)

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