司冬ワンライ/早起き・朝顔

「…む」
目覚ましも鳴っていない時間帯。
いつもより早めに起床した司はそれを鳴り出さないようにオフにして、ベッドを抜け出した。
朝ご飯までに帰ってこようと軽い身支度を済ませて家を出る。
まだ暑くなっていないこの時間、夏の爽やかな風が吹く朝の一時が司は好きだった。
郵便配達員や、早朝バイトに向かう学生などはいるが、日常が始まる前の時間を歩くのが何となく心地良い。
勿論、いつもの喧騒も好きなのだけれど。
「…ほう、こんなところに朝顔が咲いていたのか」
普段とはまた違う道をゆっくりと歩いていれば、石垣に朝顔が咲いていた。
今朝咲いたばかりなのだろう。
その花には朝露が光っており、司は目を細めた。
きらきらと光るラッパ状花には誰かを思わせる爽やかさがあって。
司は屈めていた身体を起こしてまた歩き出す。
この朝顔が見られただけでも朝の散歩は収穫あり、といったところだろうか。
「…ー♪」
「…この声は」
公園の通りに差し掛かると先程思い出した彼の歌声が聞こえて来て司は目を瞑った。
朝の爽やかな風に乗って、彼の…冬弥の歌声が耳をくすぐる。
すぐに彼のところに行っても良かったが、暫く聴いている事にした。
練習曲(エチュード)を聴かれるのは冬弥も嫌かろうが、それでも聴いていたかったのである。
「…やはり、早起きは良いものだな」
小さく笑い、司は彼から見えない位置に腰を下ろした。
そういえば、と思い出す。
彼に似た花、朝顔の花言葉。



(嗚呼、なんて安らぎに満ち足りた気分!)



「おはよう、冬弥!とても良い歌だったな!」
「…!司先輩!!聴いていてくださったんですね!」

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