司冬ワンライ/ゲームセンター・ぬいぐるみ

商店街を抜けた脇にある小さなゲームセンター、そこに見覚えのあるシルエットを見つけ、司は駆け出した。
「冬弥!」
「…っ!…司先輩」
びく、と肩を震わせた冬弥がこちらを振り向き、ホッとしたように表情を崩す。
どうやら驚かせてしまったようだ。
「驚かせてすまない!…今日は何のゲームをしているんだ?」 
笑いかけ、ひょいと彼の手元を覗き込む。
いえ、と小さく返してきた冬弥はどうやらもう戦利品をゲットしたようで、小さなぬいぐるみのキーホルダーを2つ手に持っていた。
見た目に寄らず、冬弥はクレーンゲームが得意なのである。
「…キーホルダーのクレーンゲームか。大きいぬいぐるみともまた違ってまた難しそうだな…」
「そうでも、ないですよ」
むむ、と眉を顰める司に冬弥が小さく笑んだ。
彼はゲームが得意で…それこそゲーム大会で準優勝するくらいには…きっとこれくらいなんてことはないのだろう。
「で?戦利品は持ち帰るのか?困るなら持ち帰っても良いが」
「いえ。…今日は俺が欲しかったので」
微笑む冬弥に司は首を傾げた。
彼はクレーンゲームは得意だが、商品そのものに興味があるわけではない。
特に大きなぬいぐるみは置き場所に困るようで、妹がいる司や、姉がいる冬弥の友人で相棒の彰人に貰ってもらっているのだ。
だから今回もそうなのかと思いきや…珍しいな、と思う。
筐体の中身はごく普通のぬいぐるみキーホルダーで。
マイクを持ったレモン色の犬やステッキを持った青色の猫、本を持った水色のうさぎ等、随分カラフルで豊富なデザインのそれが詰め込まれている。
確かに可愛いし目を引くが…何故これが欲しいのだろうか。
じぃっと見ていると、水色のうさぎがなんだか冬弥に思えて、司は小さく笑う。
「…?あ、の」
「いやぁ、あのうさぎが冬弥に見えてきてなぁ」
「…っ!そう、ですか」
「?冬弥?」
目を見開く彼に思わず首を傾げた。
何か変な事を言ってしまっただろうか。
「…いえ、あの実は…俺も同じことを思っていて…」
「む?」
「…この子が、司先輩に似ていたので…思わず」
そっと見せてきたのは星を抱く黄色の犬である。
少し頬を染める冬弥の手に乗ったそれはどこか誇らしげに見えた。
ぶわりと何とも言えない感情が湧き出る。
「…。…冬弥、取り方を教えてくれ」
「…えっ」
それを悟られないように筐体の方に向き直った。
「水色のうさぎだ、あれを取るぞ」
「司、先輩?」
「…オレも、冬弥が欲しいからな」
「…っ!」
「それに…一人だと寂しかろう?なぁ、オレ」
ちょい、と冬弥の手の中にいる犬を突く。
花が咲くような笑みを見せる冬弥が、そうですね、と小さく言った。


大好きなお前だけが、『オレ』を持っているなんて、不公平じゃあないか!

「司先輩、もう少し左です」
「…ぐぬ…こうか?!!」
(それから、犬『司』の相方が来るまで…数十分かかったのは、秘密の話)

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