司冬ワンライ・水遊び/透ける

暑い。
毎日それしか思えないほどに暑かった。
「…何故、毎日こんなにも暑いんだ…」
ぐったりしてしまいそうな暑さの中、司はそう呟く。
言葉にしたところで、暑いものは簡単には変わらないのだけれど。
「いけー!ゴールドスプラーッシュ!!」
「のわっ?!」
元気な声と共に司の髪に何かが当たった。
ぽたりと落ちるのは水滴だろうか。
「あっ、お兄さんごめんなさーい!」
「コントロール悪すぎ!兄ちゃん、大丈夫ー?」
「あ、ああ!問題ないぞ!」
パタパタとかけてくる子どもは手に水鉄砲を持っていた。
どうやら水遊びをしていたらしい。
暑いのに元気だなぁと思いつつ、司は笑った。
「オレは大丈夫だったが、あまり人が通るところでやると危ないぞ?次は本当にかけてしまうかもしれないしな!」
「うん、分かったよ」
「でもこの辺にいい場所ないんだよなぁ。公園は水遊び禁止だし!」
「…。…なるほどなぁ…」
子どもたちのそれに司は考え込む。
せっかくの夏休みなのだから全力で遊びたいだろう。
「ならば、その道の突き当りでやればどうだ?少し貸してみてくれ」
水鉄砲を少年たちから借り、司は1人を突き当たり側、もう一人を家の敷地内に立たせた。
「壁に向かってと家の敷地内となら例えばこちらから人が来ても…」
「…司先輩…。…?!」
水鉄砲を敷地内にいる少年に向けた途端、誰かに話しかけられ、そちらを向く。
…だけなら良かったのだが、思わず手を動かしてしまった。
「あ」
「あ」
「…?!すまない、少年たち!!楽しく遊ぶんだぞ!!」
少年に水鉄砲を返し、司は呆然とする冬弥の手を引っ掴んで走る。
「…あの兄ちゃん、的確に服に当てたな」
「…うん。お兄さん、びしょびしょになってたねぇ…」
少年たちの呟きも聞こえぬまま、司は全速力で走った。
「あ、あの…司先輩…?!」
「…っ、すまんっ!!!責任は取るからな…!」
「いえ、あの…大丈夫…ですよ?」
人気が少ないところまで走り、取り出したタオルで拭いてやりながら司は謝る。
冬弥はといえば困った顔で微笑むばかりだ。
「そうはいかんだろう!こんなに、その…肌が透けてしまっているのに」
「?俺は別に…この暑さならすぐ乾くでしょうし」
「オレが!嫌なんだ!!!」
不思議そうな冬弥の肩をガシっと掴んで司は言う。

セミが鳴く暑い夏。


水遊びで濡れた透けた服と白い肌。



青少年の夏は、これからだ。

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