ケンシン ケンヤバースデー

今日は世界猫の日なんだと。
そう言えば横で本を読んでいたすぐ下の弟が首を傾げた。
「…なんで?」
「さあ?外国の方の協会で決まってるらしくて…」
「…じゃなくて」
「ん?」
ふるふるとシンヤが首を振る。
黒い髪がさらりと揺れた。
「なんでそんな話を急に?」
「…なんでって、思い出したから?」
不思議そうなシンヤにそう返せば彼はふぅん、と納得したのかしていないのか分からない返事をしてくる。
単純に、最近知った知識を思い出したから教えてやろう、くらいだったのだけれども。
「…。ケン兄のことだから、てっきり…」
「あ?」
小さな彼の声はばっちり耳に届き、ケンヤはニヤニヤしつつ肩を組んだ。
少し重そうに眉を顰めるシンヤに、ケンヤは、「てっきり、なんだよー!」と笑った。
「なぁ、シンヤー!」
「…。…笑わない?」
小さく息を吐いたシンヤが小さく首を傾げる。
兄である自分にしか見せない、弟の顔。
可愛いよなぁ、なんて思いながらわしゃりと髪を撫でた。
「笑うわけ無いだろー。可愛い弟の話なのに」
「…ケン兄のことだから、誕生日だし猫の真似してとか言うのかと」
「よーし、待て。シンヤはお兄ちゃんの事なんだと思ってんだ?」
「ケン兄はケン兄だけど」
揶揄っている訳ではないのだろうそれに、ケンヤは大きく溜息を吐く。
まさかそんな風に思われているなんて。
「ケン兄は実の弟を猫扱いなんてしねぇっつー…」
「…そう、なんだ?」
「逆になんでそんな意外そうなんだ…??」
驚いたようなシンヤに首を傾げれば彼は小さく笑い、手をグーにした。
そうして。
「…にゃあ」
そう、小さく鳴く。
「?!!」
「…一応、ケン兄の好きな話は覚えてるつもりだけど」
「待て待て待て!それどこで聞いた?!なぁ、シンヤ?!!」
焦るケンヤに、シンヤは、内緒、と笑ってするりと逃げた。
まるで、猫のように。
「あ、誕生日おめでとう、ケン兄」
「おう、ありがとう…いや、違くて!」
なかったかの様に祝われるそれに、当たり前の如く返したがまだ話は終わっていないと手を伸ばす。
いつもより楽しそうなシンヤがステップを踏んだ。


月夜の晩。


猫が祝う彼の誕生日。


ふわりと笑ったそれは静寂に溶けて消えた。


(たまにはこんなバースデーも良いかな、とか)

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