あきとふゆの夏_巡

「っあー!終わったぁぁあ!!」
彰人が息を吐きながら伸びをする。
やれやれ、という表情をするのは冬弥だ。
本日8月31日。
夏休み最終日にもなって何をしているのか。
そんなこと、聞くまでもない。
「…もっと前からやっておけば良かったのに」
「…う…。悪かったって」
じとりと見つめられて彰人はホールドアップした。
冬弥が言うのはもっともで、彰人は今の今まで夏休みの宿題を放っておいたのである。
提出日までにはまだ時間もあるし、なんて流暢に構えていたが愛する相棒はそれを許さなかった。
ついうっかりバラしてしまい、彰人は朝から冬弥と宿題漬けをする羽目になってしまったのだ。
そのお陰で今年は夏休み中に無事終わったのだけれど。
「何でも言うこと聞いてやるからさ」
「…まったく」
「行きたかったトコでもしたかったことでも、何でも付き合うから許せって、な?」
ため息ですら美しい恋人に焦りつつ言えば、冬弥はふと何かを考え込んだ。
「…なんでも、良いのか?」
じぃっと見つめる冬弥に、男に二言はねぇよ、と笑う。
なら、と彼は綺麗な口を開いた。
「…花火を、してみたい」



「…こんなもんか」
夏の終わりで安くなっていた花火を買い漁り、彰人は息を吐く。
こんな夏終盤ともあって…100円ショップなどはすっかりハロウィンに取って代わっていた…随分と安く手に入ってしまった。
「…彰人」
「おう」
バケツや火を用意してくれていたらしい冬弥に手を挙げる。
「本当に手持ち花火で良かったのか?」
「ああ」
今時、小学生でもしないお願いに首を傾げるが、当の彼はわくわくしているようだった。
「昔は手にやけどでもしたら、と花火は許してくれなかったんだ。だから、彰人と花火が出来るのは嬉しい」
「…そーかよ」
小さく笑う冬弥に、彰人は頭を掻く。
そんな顔をされては敵わないではないか、と。
袋から花火を1本取り出し、冬弥に渡す。
ライターから火をつけるとシュー!という音と閃光が飛び、彼はびくっと肩を揺らした。
「大丈夫かよ」
「あ、ああ。…これは、どうすれば良いのだろうか?」
「そのまま持っとけ。落とすなよ」
「分かった」
おっかなびっくりな冬弥に笑いながら彰人も自分の花火に火をつける。
激しい光が、冬弥の花火と絡まった。
「…っ」
「おまっ、ビビりすぎ」
「…しかし」
思わず笑う彰人に冬弥はオロオロとこちらを見る。
最初にしては激しかったかもしれないな、と思った。
火が消えたのを見計らい、彰人は水の入ったバケツに入れる。
「流石に多いし、セカイに持ってってやるか」
「…そうだな。リンやレンは喜びそうだ」
「ルカさんやカイトさんも、好きそうだよな、こーいうの」 
くすくすと笑い、彰人は2本だけ抜き取った。
「セカイに行く前に、これだけやんね?」
「…これは」
「線香花火」
首を傾げる冬弥にそう言って彰人は火をつける。
冬弥に渡して同じように火をつけた。
ぱちぱちと弾ける、柔らかな光。
オレンジと青が混じり合う。
自然と二人口を合わせ、離れる頃にぽとりと光の玉が落ちた。


夏の終わり、線香花火の光が消える。
闇の中二人切り。

「…行くか」
「…ああ」

そう言って立ち上がる。

リリと啼くは秋の訪れ。

今年も、夏が終わる。

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