司冬ワンライ/運動・教えて

「司先輩。俺は半運動音痴らしいのですが」
可愛い後輩兼幼馴染兼恋人から唐突にそんなことを言われ、司は目を丸くした。
一体なんだってそんなことを。
「運動会の玉入れが散々だったのでこれは俗に言う運動音痴なのではないかと思い聞いてみたんです。そしたら、半運動音痴くらいなのでは、と」
「…誰が言ったんだ、そんなことを」
「草薙です」
頭を抱える司に彼はあっさりそう言った。
冬弥に無自覚に甘い相棒である彰人ではないとは思っていたが…まさか寧々とは。
「ダンスは踊れるし、球技は身体の使い方を覚えられれば出来るようになると考察されました」
「…いや、まあ…その…」
言葉を濁す司に、冬弥は真剣な目でこちらを見る。
きゅ、と司の手を握り、口を開いた。
「司先輩、俺に球技の手解きをしてはもらえませんでしょうか!」


球技と言っても様々に種類がある。
とりあえず、高く目標に向かって投げる、のは苦手だと分かっているから遠くに投げてみてはどうかと提案してみた。
「行きますね、先輩!」
「どんとこい!」
数メートル離れたところでぶんぶんと手を振れば冬弥もそれに応えてボールを投げる。
フォームは良かったが、ぽてんと音を立て、それは落ちた。
「…あれ?」
「…。…よし、まずは投げ方からだな!」
首を傾げる冬弥に駆け寄り、彼の背後から手を持つ。
「こうやって、少し後ろに引いてから…投げる!」
ぶん、と彼の腕ごと振れば、ボールは先程よりよく飛んだ。
「…!凄いです!」
「そうか?コツをつかめばできるぞ!ではもう一度…」
「はい!…あ、少し待ってください」
「む、どうした?」
やる気満々で頷いた冬弥がストップをかける。
どうかしたのかと聞けば、彼は少しはにかんで言った。
「…その…背後から抱きしめられる経験があまり無く…すみません」
「…へ?…ああ!」
困った顔で謝る冬弥にぽかんとしてから司も気づく。
なるほど、慣れない体制にドキドキしていたらしかった。
「しかし、このやり方が一番効率が良いからなぁ…」
「…そう、ですね」
「ではやるぞ。…冬弥」
曖昧に頷いた冬弥の腕を取り、耳元で囁く。
可愛らしい声が聞こえたが知らないふりをした。

教えてくれと言われたから教えたまで。

その教え方に指定はなかったのだから!



後日、飛距離は伸びたがボールを持つと司の声を思い出し真っ赤になる冬弥がいたとかどうとか。

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