司冬ワンドロ/10回ゲーム・遊びの本気(本気の遊び)

10回ゲームとやらをご存知だろうか。
例えばピザと10回言わせ、「じゃあここは?」とひじを見せて「ひざ!」と言わせることができれば勝ちという、なんとも子どもらしいゲームだ。
最近なぜだか宮益坂女子学園で流行っているらしく、咲希やえむが教えてくれたのだ。
司も知ってはいたが、実際にやったことはないな、と思う。
単純な言葉遊びで、そこまで大盛り上がりするようなゲーム…でもないはず、なのだけれど。
「…司先輩、10回ゲームはご存知ですか?」
「…。…まさか神山高校でも流行っていたとは…」
冬弥のそれに思わずそう言えば、彼はきょとんとした。
何でもない、と返してから司はニッと笑う。
「ああ、知っているぞ!…そうだな、10回好きと言ってみてくれ」
「はい。…ええと、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き」
「オレのことは?」
「…!愛してます!」
「…!!オレも冬弥を愛しているぞ!!」
嬉しい言葉に思わず冬弥を抱きしめた。
まさか冬弥がそんな事を言ってくれるなんて!
「…。…司さん、公衆の面前で何やってるんです?」
「…おぅわっ?!志歩?!!」
嫌そうな声にバッと身体を離せば、じっとりと司をよく知る少女がこちらを見ていて。
「な、何故こんなところに…」
「友だちと限定フェニーくんを買いに。司さんこそ、こんなところでイチャついてたらまた草薙さんに怒られますよ」
さら、と志歩が言う。
以前、「別に司が青柳くんのこと好きなのは全ッ然構わないけど、公衆の面前でイチャイチャしないで。司だって、例えば他の知り合いだったら複雑な気持ちになるでしょ」と怒られたのだ。
確かにそうだな、とは思ったのだが…好きなものは好きなのだから、その気持ちを止めることは出来ないのである。
それはもはや仕方がないと言えよう。
「私は忠告しましたから」
「…あ、ああ」
それだけ言ってさっさと待ち合わせ場所なのだろうベンチに戻って行く志歩に頷く。
怒られてしまったな、と頭を掻けば冬弥がしゅんとしていた。
「すみません、俺のせいで…」
「何を言う!勝手にゲームを始めたオレのせいだろう!…ところで、オレにやってほしいのではなかったか?」
優しく聞けば、少しだけ目を逸らした。
「?冬弥?」
「…今言われたばかりですが…分かりました。俺のは暁山から教えてもらったものなんです。…先輩、好きと10回言ってください」
「分かった。好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き!」
10回言い終え冬弥を見る。
さて、何と言ってくるのだろう?
「では、好きの反対は?」
「…なっ」
首を傾げる冬弥に、思わず言葉を詰まらせる。
ゲームとは言え、そんな、とも思ったが。
「…先ぱ…っ?!」
ぐいっと引き寄せ、キスをする。
触れるだけの軽いものだが、冬弥にとっては充分だったようだ。
「遊びとはいえ本気にするぞ?」
「…すみません」
顔を近づけ囁やけば、彼はふにゃりと笑った。
…途端。
「…つーかーさー?!」
「げっ、この声は…寧々?!不味い、逃げるぞ、冬弥!」
「えっ、はい!」
「あっ、こら!逃げるなー!」
寧々の怒鳴り声が響き渡る。
しっかり手を繋ぎ、二人は逃避行へと駆け出した。


子どもの遊びでも、二人にとっては本気の愛言葉!


(例え誰かに怒られたのだとしても、なんてね!)


「…あーあ、忠告したのに」
「おまたせ、日野森さん!…どうかした?」
「…何でもないよ、桐谷さん」

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