司冬ワンライ・魂のつながり/最高潮

毎回妙な場所に飛ばされ、歌を披露しているな、とは思っていた。
何故だか今日に限って初音ミクも誰もいないが、まあそんなものは誤差の範囲なのだろう。
セカイとはまた違う空間、その中で。
「…ふむ」 
司は少し考えた後に、すぅ、と息を吸った。
セカイで生まれた歌を歌えば誰かが来るだろうと踏んだのだが、誰も現れない。
ならば想いが違う、ということだろうか。
少し座って触れてみれば何だか暖かい気がした。
その感覚はもっともっと昔、司が幼少期に感じたことがあった気がして。
自然に口が開く。
紡ぐのはよく歌っていた童謡。
よくピアノで弾いていたメロディ。
音数も歌詞も簡単なものだけれど司にとっては大切な曲。
「…!司先輩?」
歌の途中で聞きなれた声がする。
驚くだろうと思っていたのに、まるでそれが当たり前かのように司は微笑んだ。
「冬弥!!…やはり、来てくれたんだな」
「…ええと、此処は…」
「なぁに、気にするな!夢の中だとでも思えば良い!…きっと、魂が惹かれ合ったが故の夢、だとな」
「…。…そう、ですね」
ふわ、と冬弥が笑む。
彼は隣に座り、先程まで司が歌っていた歌を奏で出した。
司も重ねるように歌を紡ぐ。
ライブのような、ショーのような、最高潮の盛り上がりはないけれど、ただゆっくり過ぎるそれは暖かく幸せなものだなと、そう思った。

(きっとそれは、魂のつながりが生み出す奇跡の場所)



「ところで司先輩は何故ここで歌を?」
「ああ。花里や一歌たちと会うときは歌を歌っていたからな。きっと、歌を歌えば出会えると思ったんだ。…オレの、暖かい場所にいる…お前に」

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