とーやの日

「おはよう、冬弥!!良い朝だな!!!」
司は登校途中に、冬弥を見かけて大声で呼びかけた。
くるりと振り返った冬弥が柔らかく笑む。
「おはよう御座います、司先輩。良い朝ですね」
その表情に司はうんうんと頷き、そっと彼の頭に手を伸ばした。
意外に柔らかい髪に指を絡ませる。
「…司先輩?」
「いや?…その言葉には嘘がなさそうだと安心した」
「…え……」
「昔は少し無理をしていただろう?だから、本音の言葉が聞けて、オレは嬉しいぞ」
「…!」
司の言葉に目を見開いた冬弥がふにゃりと笑った。
嬉しそうなそれに司の心は跳ね上がる。
「ありがとうございます。…でも、今日良い朝になったのは…司先輩に出会えたからです」
「…冬弥…!」
嬉しい言葉に思わずわしゃわしゃとその髪を撫でた。
全く、いつだって彼は可愛いのだから!
「オレも、冬弥に出会えて最高の朝だぞ、冬弥!!」




「相変わらず愛されてるよねー?」
「?!白石?!!」
「ああ、何せオレの大切な冬弥だからな!愛さずにはいられないというものだろう?!」
「はいはぁい、イチャイチャするのは良いけど、さっさと入ってくださーい?」


「…よお、冬弥」
「…彰人?」
彼の教室に行くと本を読んでいたらしい冬弥がキョトンとした顔をしてからすぐ駆け寄ってきた。
「今日の昼はサッカー部の助っ人だと…」
「あー、後は部内のミーティングだけっつーから抜けてきた」
言いながらタオルを差し出して来る冬弥からそれを受け取り答える。
そうか、なんて笑う冬弥の頭に彰人は手を伸ばした。
「…彰人?」
「…後、お前に早く会いたかったしな」
「…!」
くしゃりと髪を撫でると冬弥は目を丸くしてくすくすと笑う。
「んだよ」
「…いや……」
「誤魔化すなっつー…」
楽しそうな冬弥に詰め寄りながら、可愛い顔しやがって、と彰人は心の中で毒づいた。
それでもまあ良いかなんて思ってしまうのは絆されすぎなのだろうか。
「…練習で毎日会っているのに、まだ会いたいと思ってくれているんだな」
「はぁ?当たり前だろ」
笑う彼に彰人は頭を撫でてやりながら言った。
「オレは、いつだって冬弥の隣にいたいって思ってるよ」



「…相変わらず愛されてるよね」
「?!草薙?!」
「おお、オレの大切な相棒だからな。これくらいフツーだろ」
「…まあ普通かどうかは置いといて。…授業、始まるよ」



「やあ、青柳くん」
「…神代先輩」
放課後。
図書室の扉を開け、挨拶をすれば、ふわ、と冬弥が微笑む。
「また来てくださったんですね」
「ああ。…この間君が教えてくれた本が面白くてねぇ。特に踊るたぬきが良い所良い所に出てくるのが不意を突かれてとても良かったよ。続きはあるかい?」
「はい。確かこっちの棚に…」
嬉しそうな冬弥がカウンターの中から出て棚に案内してくれた。
数冊手に取って類に渡してくれた。
「ありがとう、青柳くん」
「いえ。…また読んだら感想教えてくださいね」
「勿論だとも」
柔らかく微笑む冬弥が可愛らしく見えて類は小さく笑いながら彼の頭に手を伸ばす。
「…えっと、神代先輩…?」
「いや。君のことが愛おしくなってしまった。すまない」
さらりとした髪に指を通し、類は微笑んだ。
「俺のことが、ですか?」
「ああ」
首を傾げる冬弥に迷い無く頷けば、彼は可笑しそうに肩を揺らす。
同時にきれいな髪がさらさら揺れた。
「どうしたんだい?青柳くん」
「…いえ。神代先輩にそう思っていただけるのは少し嬉しいな、と…」
へにゃ、と笑う冬弥に、やはり可愛いな、と類は頭を撫でる。
何だか心が暖かくなった気がして、類は目を細めた。



「…相変わらず愛されてるよねぇ」
「?!!暁山?!」
「やあ、僕も青柳くんのことは大切だからねぇ。愛したって構わないだろう?」
「ボクは別に良いけどさぁ。先生が早く帰れってー」


「お、冬弥!やっときたか!」
「…うわ、神代センパイもいんのかよ」
「おや、いてはいけなかったかな?東雲くん」
「…べぇつにぃ?司センパイだけでも面倒だと思っただけッスよ」
「よし。彰人と類は置いて先に行くか!」
「ふふ、抜け駆けする気かな?司くん」

微笑む冬弥を囲んでわちゃわちゃと過ごす放課後の通学路。



だって今日は10月8日。

本人も気がついていない、彼を甘やかして良い日。



(本日、10月8日とうやの日!!)

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