アンカイ アンヤバースデー

誕生日プレゼントは何が良い、なんて。
思ってもいないことを言われてアンヤは眉を顰めた。
どうせいつもの気まぐれだ。
黒猫みたいだと彼を評したのは誰だったろう。
「んじゃーオメーが良い」
「へーへー俺な…。…へ?」
軽く言えばいつもの感じで適当に返事したらしいカイコクがきょとんとした。
なるほど彼もそんな顔をするのか、なんて思いながらその手を引っ張る。
「…ちょ?!駆堂?!」
「あ?オメーをくれんだろ」
いつも飄々としている彼はすっかりいなくなっていて、これはこれで面白いなと思った。
だが、そんな表情だけでは満足できない。
人間、欲望には貪欲であれというのは亡くなった兄の教えだ。
混乱しているらしい彼に、アンヤはニッと笑う。
「プレゼントはプレゼントらしく…。…いいから黙って着いてこいや」


「…展望デッキ?」
二人で登ったそれは、今行ける範囲で1番高い場所だった。
ゲノムタワーの49階。
パカからは別に面白みはないですよ、と言われたが別に面白みを求めているわけではないから何でも良かった。
「おう。…月がよく見えんだろ」
デッキの手すりに手をかけ、アンヤは言う。
月が綺麗ですね、なんて言うつもりはさらさらないし、そんな関係ではないのだ。
ただ、隣にいれば良いと思う。
「…月、ねぇ」
くすくすとカイコクが笑った。
ふわりと彼の綺麗な黒髪が揺れる。
「まあいいんじゃねェか?月光の誕生日会ってのも乙だろうしねェ」
楽しそうにカイコクが言った。
どうやらお気に召したらしい。

「んじゃ、改めて。…誕生日おめっとさん、駆堂」
「…ん、どーも」


優しい彼の笑みが月光に照らされる。
悪くない誕生日だな、と、そう…思った。



醒めぬ夢を追っていったその先に、貴方が今みたいに微笑んでいてくれたら、幸いだと…そう、思うのです。

name
email
url
comment