司冬ワンライ/成人・酔ってしまいそう

そういえば袴姿や振り袖を着ている人たちをよく見るな、と思っていた。
「そうか、成人式か…」
「今気付いたの?!お兄ちゃん!」
ぼんやりと呟けば妹である咲希が驚いたようにこちらを向く。
「いや、休みだとは思っていたんだがな…?」
「あははっ、そういうトコ気にしないもんね、お兄ちゃん!」
咲希がにこにこと笑い、そうだ!と楽しそうに手を叩いた。
「ねえねえ!成人したら何がしたい?」
「成人したら?…そうだな…」
彼女のわくわくしたそれに司は考える。
「…酒を、嗜んでみたいかもしれないな」
「!そーなんだぁ」
思った答えと違ったらしい咲希が驚いたように言う。
「?どうした?何か意外だったか?」
「ううん。お兄ちゃんなら、とーやくんと結婚する!って言うかと思って」
「それは、してみたいこと、ではなく、必ずすること、だろう?」
「あ、なるほど!それもそうだね!」
司のそれに咲希はあっけらかんと笑った。
「そうだ!これからとーやくんとデートでしょ?アタシがコーディネートしてあげる!」
「む?そうか?」
「うん!題して…!」
きゃっきゃと咲希が楽しそうに何やら櫛などを取り出す。
まあ楽しそうなら良いかと司は身を任せることにした。



「冬弥!すまない、待たせた!」
「…っ?!」
手を振り駆ける司を見止めたはずの冬弥の目が真ん丸に見開いた。
どうかしたのだろうか?
「?冬弥?どうかしたのか?」
「…えっ、あっ、いえ。とても素敵でしたので、その…見惚れてしまいました」
「はーっはっはっはっ!そうだろうそうだろう!これは咲希がやってくれたんだ。ずばり、テーマタイトルは『成人したオレ!』」
少し照れたように笑う冬弥に司は胸を張る。
咲希が、緩いパーマをかけ左右に分けて作った髪型は冬弥も気に入ったようだ。
「大人の魅力溢れる、素晴らしいコーディネートだろう?」
「はい。…先輩の魅力が素晴らしく、その…」
自信満々に聞く司に冬弥は少しはにかむ。
そうして。
「…少し、酔ってしまいそうです」
耳元で告げられるそれに司も目を見開いた。
顔が紅くなるのを止められない。

…本当の『大人』ならば、照れたりはしないのだろうか、なんて、頭の隅でそう思った。


(大人にはまだ一歩


まだまだ、思春期真っ只中らしい!!)


「…まあ、ゆっくり進んでいけば良い。なぁ?冬弥」
「…そう、ですね」

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