魔法少女を辞めたい遥と、それなら黙って一緒に飛び降りる志歩の話
とある放課後。
「魔法少女、桐谷遥!」
「そこ、本名でいいんだ?」
「…あ、そっか」
とある空き教室で、志歩は遥の相談に付き合っていた。
「じゃあ…魔法少女キューティースマイル☆はるか!」
きゅるん、と音が付きそうなそれが決まる。
いいんじゃない、と志歩は笑った。
「ふふ。ありがとう、日野森さん」
「私は別に何もしてないけど」
「そう?一緒に考えてくれただけでも、すごく助かったけどな」
「それなら良かった」
にこにこと笑う遥に志歩も僅かに笑みを浮かべる。
遥が持っていたおもちゃのステッキを取り上げた志歩は、くるりと回して先端を彼女に向けた。
「それ、今度のカバー曲でしょ」
「そうなの!魔法少女を辞めたい女の子の歌なんだけど、私にはあんまり理解出来なかったから魔法少女になってみようかなって」
パン、と手を合わせる遥のそれに面食らったが、彼女は【アイドル】に関してかなりストイックだ。
まあそういう切り口でのアプローチも有り得るだろう。
「桐谷さんって意外に真面目だよね」
「それは…褒められてる?」
「うーん、ギリギリかな」
「ギリギリなんだ…」
ふわふわと綺麗な彼女の髪が揺れた。
楽しそうな遥にまあ良いかなんて思う。
「それで?魔法少女になってみた感想は?」
再びステッキを向けると、少し困った顔をした。
「あんまり変わらないかなぁ…。魔法を使えるようになった訳じゃないしね」
「お供の妖精もいないし?」
「ふふ、そうかも」
肩を揺らした遥は、「…でも、困ったな」と、天井を仰いだ。
歌詞の内容を理解しないままなのは嫌なのだろう。
…志歩もそうだから、何となく分かる。
「…魔法少女をアイドルだと思えばいいのかな…」
遥が小さく呟く。
この魔法少女は、確か純粋が仇になるセカイで、人々の期待や悪意に嫌気がさしていたのだったか。
けれど。
「…桐谷さんはアイドル、辞めないでしょ」
志歩は笑った。
彼女が以前別のアイドルグループを辞めたのは知っている。
けれど、彼女は戻ってきた。
また、アイドル、に。
「…!」
目を見開いた遥はにやりと笑った。
「うん、辞めないよ」
「だと思った」
力強いそれに志歩も頷く。
結局、遥は昔の想いを思い出しながら歌ってみることにしたようだ。
帰り支度をしながら遥に、「でも希望を届けたいモアモアジャンプにしては珍しい選曲だよね」と問う。
「ああ…。この曲はファンの人たちのリクエストなんだ。お正月のファンミーティングで、新しいカバーを披露するってリクエストアンケート取ったら、この曲がいいって声があって」
「…へえ。お正月のファンミーティングか。相変わらず忙しいね」
「ふふ。でもレオニードもライブするんだよね?私、レオニードのカバー曲も好きだよ」
「…まだお披露目してないはずだけど…?」
遥の言葉に、うん?と首を傾げる。
くすりと遥が笑った。
「ふふっ、内緒」
「…まったく」
イタズラっぽいそれに志歩は息を吐く。
まあ…犯人は大体想像がついているから。
「日野森さんは、ライブの舞台から飛び降りたいって言ったら一緒に飛び降りてくれそうだね」
遥が言う。
ライブの舞台から飛び降りる、というのは恐らくバンドを辞める、ということだろうか。
「そりゃあ、まあ、一緒にプロになろうってみんなこの世界に飛び込んでくれたからね。飛び降りる時もみんな一緒だよ」
「日野森さんらしいね」
肩を竦める志歩に、遥が何故だか嬉しそうに笑った。
「…あ、でも」
志歩のそれに遥が首を傾げる。
「もし、桐谷さんが黙って飛び降りるってなっても私は飛び降りないよ」
「?それはそうだと思うけど…。だって、私と日野森さんは違うし」
きょとんとする遥に首を振った。
「いや、そうじゃなくて」
否定してから、志歩はニッと笑う。
「…桐谷さんは、黙って【ステージ】から飛び降りたりしないでしょ?」
「…!!」
綺麗な瞳が見開かれた。
志歩は知っているから。
遥が、黙ってアイドルを辞めたりしないことを。
彼女は、迷っても悩んでもきっとまた【アイドル】にかえってくることを。
「…うん、そうだね」
ふわりと微笑む遥は、やはりどこまでいってもアイドルだなあと思う。
だから、志歩はバンドを辞めない。
きっと……夢を追っている間は…何があっても。
「まあお互い行き着くところまで行ったら考えよっか」
「えー?負けないよ?」
「…勝ち負けなの?これ」
負けず嫌いを発揮する遥に志歩は思わず笑ってしまった。
そうこれは
(アイドルを辞めない遥と、黙って一緒に飛び降りてくれない志歩の話!)
「…あ、桐谷さん、チョコいる?」
「そうだな…日野森さんがランニングに付き合ってくれるなら」
「何それ…。…まあ、良いよ」
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