しほはる 志歩バースデー

「…ふう」
朝から現実でもセカイでも皆にお祝いされ続けてほんの少し疲れてしまった。
勿論、お祝いされるのは嬉しい。
嬉しいが何だか気が張り詰めてしまうのだ。
ここ最近、こんなにお祝いされるのもなかったからかもしれない。
「…随分賑やかになっちゃったなぁ…」
小さく笑って志歩は空を見上げた。
きっとこれが当たり前になっていくのだろう。
「…日野森さん!」
「…え…」
ふと後ろから明るい声が聞こえて志歩は振り返った。
「…桐谷さん?!」
「今晩は!」
微笑んだ遥は随分とラフな格好をしている。
そういえば毎日走っていると言っていたから今もその帰りなのかもしれないな、と思った。
「今晩は。…もしかして、ランニングの帰り?」
「うん、まあ…そんなところかな?…日野森さん、お夕飯まで時間ある?」
「えっ、ああ、まあ…」
曖昧に答えを濁した遥は志歩を見てにこりと笑う。
その圧に押され、思わず頷くと「良かった!」と彼女は微笑んだ。
そうして。
「ちょっと私に付き合ってくれない?」



無邪気に笑った遥に連れられてやってきたのは星がよく見える公園だった。
「えっと…?」
「日野森さん、こっちこっち!」
手招く遥にまあ良いかとついて行き、ベンチに腰掛ける。
「…じゃんっ」
「…って、カップラーメン?」
持っていた袋から出てきたのは魔法瓶とよく見るカップラーメンであった。
確かに志歩はラーメンが好きだけれど。
「お湯は熱々だから、ちゃんと作れるよ?」
「そう、なんだ?」
自慢気に言う遥に少し戸惑いつつ頷く。
「…えっと、何でカップラーメン?」
「?日野森さん、ラーメン好きでしょう?」
「まあ好きだけど」
「ふふ、実は私も食べてみたかったんだ」
機嫌良く笑う遥に志歩は首を傾げた。
誕生日祝いかとも思ったが遥は学校でも誕生日を祝ってくれたのである。
「…もしかして、誕生日祝い?」
「うーん、それもあるけど…」
何のつもりかと思い聞いてみれば遥はへにゃりと笑った。
「私が、日野森さんと二人で話したかったんだ」
「え…」
「誕生日祝いっていうと気を引き締めちゃうでしょう?だから普通通りに出来るように、と思ったんだけど…」
そこまで言って遥は困ったように口を噤んだ。
ああ、そういうこと、と志歩は笑う。
彼女は凄く気遣いが出来る人だ。
だからこそ人に甘えられない。
きっとこれは志歩の誕生日に託けた彼女なりの甘えなのだろう。
二人で話したい、という紛うこと無き本音。
「…ありがとう。嬉しいよ」
「本当?!」
「私もちょっとゆっくりしたかったし。…それに…」
顔を輝かせる遥の指先に口付ける。
驚いた表情の彼女に志歩は笑いかけた。
「…桐谷さんと二人きりになりたかったしね」



きらきら、星が輝くいつもの公園で


祝ってくれる貴女の優しさが一番のプレゼント


(特別ではないけれど、暖かいそれはじんわりと志歩を包むのだ)



「ねぇ、ラーメンが出来るまで歌ってくれない?」
「…!…勿論」

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