或る詩謡い人形の記録〜2〜

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光り輝く王宮の一部屋。
そこに城の者殆どが集まっていた。



或る詩謡い人形の記録〜2〜



「隣国との争い・・・先日の件で懲りたと報告があったが?」
会議室の一番奥、じろりと睨むのは先程までイスファルといたレイナス王だ。
やはり大臣が多く集まるこの場では雰囲気がまるで違う。
一応王の立場は理解しているという事か、とイスファルも小さく嘆息した。
すい、と前を見ればレイナスに睨まれた大臣が身を縮ませている。
歳若いレイナスに媚び諂う彼等が何だかおかしかった。
「・・・はっ・・・国境付近には常に軍を配備しておるのですが・・・。何分相手はこちらより雪山には慣れております。・・・故に・・・」
「それだけではあるまい?」
大臣の報告にレイナスが軽く笑ってみせる。
「相手はこちらを甞めている・・・違うか?」
「・・・仰る通りで」
レイナスの言葉は事実だった。
隣国はこちらの戦力を甞めきっている。
・・・ただ一人、イスファルを除いて。
彼女がいなければこの国はとうに滅びていたはずだ。
「しかし・・・!」
「ではどうしろと?戦力は埋め様がない、事実であろう」
先程から同道巡りである。
小娘なんぞを軍に入れたくない大臣達と、その彼女の戦力を期待している王と民衆との意見で真っ二つに割れているのだ。
「・・・戦地に赴いてくれ。明朝、すぐ」
「・・・はっ」
レイナスの椅子のすぐ後ろに控えていたイスファルは告げられた命に敬礼して応える。
先程報告していた大臣が睨んでいたのを、彼女は醒めた目で見つめた。

「雪菫・・・ただの小娘の癖に」
会議後、早々に王が出て行った後を追おうとしたイスファルをそんな言葉で呼び止めたのは先程の大臣だった。
「ええ。それは紛うことなき事実です。しかしその小娘にも貴方方は敵わないのでしょう?」
「・・・くっ・・・」
くすりとイスファルが笑う。
「野心が強いから隙が生じるんじゃありませんか?私は権力も財産も要らない。ただ王の為に剣を取ってきた・・・」
ふっと王の背中を見つめ、少女は小さく微笑んだ。
大臣に向けた笑みとは違う、本当の笑みを。
すぐに戻した質の違うそれで、イスファルは再び大臣に笑いかける。
「私が気に食わないなら追い出されても結構です。・・・もっとも、国がどうなっても構わないなら、ですけれど」
「貴様・・・」
「・・・では、私はこれで」
彼女の言う事は尤もなのだろう、言い返す様子も見せない大臣に嫌味なほどに綺麗にお辞儀をして見せ、イスファルは王の後を追った。

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