鬱的花言葉で1日1題2章・岩坂(キングサリ/スノードロップ・鳩彼SSS

「坂咲君」
「はい?」
薬品整理をしていた坂咲君が振り向く。
開けた窓から風が吹き込んだ。
「どうぞ」
「え・・・?」
きょとんとする坂咲君に先ほど押し付けられたそれを差し出す。
目を丸くしていた彼はすぐにいつもの調子に戻り、おかしそうに笑いだした。
「珍しいですねぇ、岩峰先生が花なんて」
似合わない、と笑う彼を一瞥する。
「押し付けられたのですよ」
「ああ、なるほど」
くすくすと笑って白い花束を受け取った彼はそれにそっと顔を近づけた。
意外にも彼にはこういうものがよく似合う。
表情に影を落としたのは一瞬で、すぐいつものように笑みを張り付けて彼は「保健室に飾ります?」と言った。
「私は貴方に捧げたのですがね。・・・この、花言葉と共に」
「花・・・言葉?」
「ええ」
私を見た坂咲君が再び小さく微笑む。
その姿はどこか自嘲的にも見えた。
「スノードロップ・・・花言葉は希望、ですか」
寂しそうに坂咲君が笑む。

ああ、貴方でも知らないのですね。


貴方と同じ、白く咲き誇るその花の本当の名を。


「坂咲君」
「・・・え?」
振り仰ぐ坂咲君にナイフを突き刺す。
彼の身体がスローモーションの様に崩れ落ちた。
白い花が紅く染まる。



残念ながらこの程度の出血量では死ぬ事はない。
ぴくりとも動かないのはナイフに塗った神経毒の所為だ。
これも致死量ではない。


何故すぐに殺さないのか?
答えは簡単だ。




折角捕まえた愛しい鳥を


すぐに殺してしまってはつまらないでしょう?




私は、淋しい美しさをまとわせた貴方が

意志の強い瞳が絶望に落ちた瞬間の貴方が



私の手によって

死ぬ瞬間が見てみたいのですよ



ぐったりする彼を抱き上げる。
・・・ふん、片手が使えないというのは不便なものですね。


誰もいない保健室の外に出る。
彼を見下ろし、私はにやりと嗤った。


さあ坂咲君



私がじっくりと時間をかけて殺してあげましょう


二羽きりのこの世界で、ゆっくりと・・・ね


ーー
岩坂・淋しい美しさ/貴方の死が見たい(通常は希望。人に捧げることで変わる)

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