鬱的花言葉で1日1題3章・レンカイ(西洋水引/オダマキ・ボカロSSS

好きな人ができました。


「おい、オンザロック」
「何?パンキッシュ」
「オレ、待ってんだけど」
「うん、そうだね」
にこ、とオンザロックが蒼い髪を揺らして笑う。
・・・あーくそっ、ぜんっぜん勝てねぇ・・・!
オンザロック。
駅前の雑居ビルから聞こえたピアノに引き寄せされるようにして入った、そこにこの人はいた。
女神はここにいたのかとガラにもなく思ったくらい、オンザロックは綺麗でさ。
友だちのバーで、週に2日ほど演奏に来てるんだと微笑みながら話してくれた彼にオレはすっかり夢中だった。
演奏する日は毎日欠かさず聞きに行き、何週間もかけて口説き落とし、漸く「1ヶ月のお試しで」という条件付きでOKをもらった、んだけど・・・。
「帰りたければ早く帰れば?」
「何の為に今まで待ってたんだよ、オレは!アンタのためだろーが!」
「別に待っててくれなんて言ってないもん」
・・・くそっ、ああ言えばこう言うやつだな・・・!!
そう、付き合ってみればこいつはとんでもない小悪魔だった。
外面と見てくれだけは完璧な、所謂猫かぶり。
誰にでも優しく、物腰柔らかな頼れるお兄さん。
・・・そんな印象はどこへやら、だ。
ま、そういうとこも可愛いというか何というか。
「アンタさー。ブルームーンとかレシーバーにはそんなこと言わねぇじゃん」
「んー、まあそうかもね」
ぶすくれながら言うとオンザロックが楽しそうに笑った。
一応オレに甘えてる・・・ってことでいいんだろーか。
もうちょっとこー・・・素直になってくれたって・・・。
「パンキッシュ」
「何ー?」
「そろそろ、終わりにしよう?」
「・・・は?」
唐突に告げられたそれに、オレは思わずぽかんとした。
パンキッシュ面白い顔ー、と笑ってるオンザロックはいつも通り可愛いけど、そんなのどうでもいい。
・・・今、なんて?
終わり?終わりって、何が??
「だからね、別れようって言ってんの」
「・・・はっ、冗談・・・」
「そんな冗談言わないよ、俺」
「・・・。・・・な、んで・・・」
「何でって。今日で一ヶ月、でしょう?」
きょとんと首をかしげるオンザロックはごく普通の、当たり前のことを言っているようにも見えた。
一ヶ月。
そうだ、お試し期間は、今日で・・・終わり。
「・・・それ、だけか?」
「そうだけど。・・・うーん、何て言うかね」
そう、可愛らしく笑う彼はいつも通りに見えた。
いつも通り、おれを振り回して。
そりゃもう楽しそうに。
「オレといても楽しくない?」
「楽しいとか楽しくないとかそういう問題じゃないの。そりゃ、君と居て楽しかったよ」
「なら!」
「けど、お試し期間が過ぎたからって本契約に移れるとは限らないでしょう?」
オンザロックが無邪気に笑う。
捨てられた?
オレが?
・・・まさか。
なんで・・・。
「じゃあね、パンキッシュ」
くるりと踵を返すオンザロックに思わず声をかける。
「なんで!!オレじゃ駄目だって言うのか?!!なあ!」
「・・・。五月蠅いなぁ。未練がましい男は嫌われるよ」
俺だって暇じゃないんだけど、と振り向いたオンザロックが嫌そうに言う。
まるで、もうお前の姿すらも見たくないと告げているようで。
「・・・そっか。うん、そうだな」
オレの言葉に、漸く諦めたかと安堵の表情を浮かべるオンザロック。
なあ、オレが何したって・・・?
「バイバイ、オレの『恋人』」
それから。
「・・・こんにちは、オレの、『●●』」
「・・・え?」
オンザロックが不思議そうにおれを見る。
どうやら聞こえてはいないようだ。
「何でもない」
軽く笑ってから、さっきまでピアノの上を滑っていた白く細い指を掴んで口づける。
仰ぎ見たその表情がびくりと揺れた。




お試し期間が過ぎても、本契約に移れるとは限らない。
確かにそうだな、オンザロック。
切るも切らないもあんたの自由だ。
でもさ。
・・・アンタが契約に踏みきるまでどこまでも離れないってのも、オレの自由だよなぁ?


オンザロックが出て行ってから、彼の弾いていたピアノに指を乗せる。
部屋に響く、不協和音。
彼の奏でる音とは似ても似つかない、それ。
愚劣な行為と呼ばれても良い。
先に切り捨てたのはこいつだ。
別れるだって?
そんな簡単に捨てられてたまるか。
オレは、しつこいんだよ?
なあ、オンザロック。
アンタも知ってるはずだ。




彼の綺麗な指を思い出す。


(好きな人ができました)



・・・もう、あの指がピアノを弾くことはない。


(好きな人ができました)




綺麗な歌声も、美しい音色を響かせるピアノも、オレだけに聞かせてよ。
一生、2人きりのこの部屋で。


アンタがそれを望むまで、オレはどこまでもアンタを追いかけて追いつめて貶めてやる。



オレを捨てたんだからそれは覚悟してたんだよな?


なあ、オンザロック・・・?


ーー
レンカイ・どこまでも離れない/愚劣・捨てられた恋人
*パンキッシュ×オンザロック

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