嫉妬(へし燭SSS・ワンドロお題)*大太刀長谷部

苛々する。
酷く苛々する。
「・・・ちょっとさあ」
ぶすくれたような声に視線を下げれば加州清光が紅い瞳を眇めて見上げていた。
「・・・。・・・なんだ、加州清光」
「何だじゃないよ。へし切ほっんとうざい」
冷淡なそれに清光が、えい、と池に向かって石を投げ乍ら言う。
今はその行為すら煩わしかった。
「へし切と呼ぶなと言っているだろう」
「なんで?」
苛立ちを隠しもせず返せば清光は首を傾げる。
少し、笑みを浮かべて。
「【あの人】に負けた気がするから?」
可愛らしい微笑みを浮かべる清光の後頭部を・・・長谷部は思い切り殴った。
「いったぁあいなあもう!!本気でやることないだろ?!」
頭を押さえて清光が怒鳴る。
それを無視し、長谷部は歩き出した。
大和守安定の「ほんと、お前馬鹿だよね」と言う声を背に聞きながら。



長谷部の苛々はここ数日続いていた。
清光と安定が出陣の途中で会ったと言っていた・・・その人に。
歩の先には燭台切光忠とわざとらしく近い距離で話す彼がいた。
「・・・光忠、これはどうする」
「ええと、これは・・・。・・・あ、長谷部君」
困ったように答えていた光忠がふとこちらを見、表情を明るくさせる。
幾分か苛々が紛れた。
「何だ、相変わらず不機嫌そうな顔をしているな、打刀の」
「・・・何をしている」
くっくと笑うその人、長い髪、長谷部よりも高い背・・・違うのはたったそれだけだ・・・同じ顔、同じ髪色・・・大太刀である長谷部国重を睨み付け、低い声で長谷部は問う。
何故、こいつが光忠の所に。
そもそも光忠は何故拒んでいないのか。
全く忌々しい、と睨めばまた楽しそうに国重が笑った。
「同じ顔の癖に辛気臭いなお前は」
「五月蠅い。貴様此処で何をしている」
「見て分からないか?」
笑って、国重はあろうことか光忠の肩に凭れかかる。
「っ!貴様!!」
「長谷部君待って、落ち着いて!」
刀を抜こうとした長谷部を光忠が慌てて止めた。
仕方がなく刀を戻す。
「えっとね、国重さんに畑仕事を教えてたんだ」
「はっ、こいつにか」
光忠の言葉に馬鹿にしたように言う。
戦う為のこいつが。
馬鹿馬鹿しい。
「なんだ、打刀の。嫉妬か」
国重が愉快そうに笑った。
嫉妬。
「・・・ああ、なんだ」
長谷部が笑う。
え、と光忠が首を傾げた。
ここ最近の苛々はこれだったか、と。
書物で読んだことがあるだけだったから分からなかったが嫉妬と分かれば対処もしやすい。
ぐいと光忠を引き寄せてにやりと笑った。
面白そうに国重も笑う。
光忠だけがおろおろと二人を見比べていた。
「・・・嫉妬か。面白いな」
「え?え??」
「燭台切は俺のものだ。触る事は許さない」
「・・・ほう」
国重が笑う。
こいつは俺の癖に良く笑う、と長谷部は思った。
「今日の所は引き下がってやろう。・・・またな、光忠」
「・・・え、あ、はい」
国重が光忠の頬を撫ぜる。
ひらりと手を振って去って行ってしまった国重を見、長谷部は溜息を吐き出した。
「・・・おい」
「・・・え?」
ぎろりと光忠を睨む。
きょとんとした光忠の腕を引っ張り・・・口吸いを施した。
「ん、んぅ!!ぅ、はぁ・・・は、せべ・・・く・・・?」
「他の男に触らせて・・・覚悟は出来ているんだろうな?」
ぼんやりした光忠の蜂蜜色の眼に向かって笑いかける。


嫉妬だと分かっているから・・・隠さないことに、した。


彼に対する思いを。


(そうしなければ彼はどんな人にも笑いかけ・・・魅了する


だから腕の中に閉じ込めた)

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