秘密/手をつなぐ(へし燭SSS・ワンドロお題)

戦況は切迫していた。
次々襲い来る敵に長谷部はいい加減溜息を吐く。
「長谷部君!」
鋭い光忠の声に長谷部は振り向きざま敵を斬り捨てた。
断末魔を上げて敵が消える。
「大丈夫かい?」
「当り前だろう」
駆け寄ってきた光忠に憮然として答える。
よかった、と彼が笑った。
「燭台切、他の奴らはどうした」
「逸れたみたいだね。・・・深追いしてなきゃいいけど」
ふう、と溜息を吐く光忠。
そうは言ってもまあ逸れた4人の心配はしなくて良いだろうと長谷部は思う。
部隊では古株である加州清光と大和守安定がいる・・・強さは申し分ないだろう。
「今日は随分敵が多いな」
「・・・そうだ、ね・・・。前はこんなに敵が多くなかったと思ったんだけど」
そう言う光忠の表情にも疲れが見えていた。
彼がそういう表情をするのは珍しい。
格好よさを追及する光忠はそういう弱音を吐いたことはないに等しかった。
連日の戦線も彼の疲労度を増しているのだろう。
だからかもしれない。
彼が・・・光忠が油断していたのは。
「!!危ない!」
「・・・え?」
先程斬り逃していたのだろう、うかつだった。
敵が光忠に刀を振り下ろす。
・・・その前に彼の腕を引き、敵を斬り伏せた。
「大丈夫か?!」
「・・・あ・・・」
振り返り、声を掛ければ彼はぼんやりと長谷部を見上げる。
急いで引き離したと思っていたのに一歩間に合わなかったらしい。
はらりと眼帯が落ちた。
「・・・え・・・」
「・・・あ・・・」
見せてくれと頼んでも曖昧に躱され、絶対に見せてくれなかった・・・隠されたそれ。
光忠の目は・・・長谷部と同じ、紫色だった。
「・・・!いや、だ・・・見ないで、くれ!」
はっとしたように片目を押さえ、光忠が叫ぶ。
「いやだ、いや・・・!僕は・・・!」
「落ち着け、燭台切!」
がたがたと怯えた様に言い募る光忠を抱きしめた。
大丈夫だと囁いてやる。
織田家であった頃の彼の片鱗を見つけて長谷部は少し嬉しかった。
だから。
「俺は、この目を愛しいと思う」
「・・・え?」
「お前の目。お前は嫌っているようだが・・・俺は愛しいと思うよ」
長谷部は笑う。
そんなに嫌わないでほしい。
自分と同じ、この目を。
「・・・ありがとう」
驚いた表情をした後光忠はふわりと笑った。
嘗てあの家に居た時はそんな表情したことなかったのに。
光忠が一歩踏み出した。
途端に踏鞴を踏む。
慌ててそれを抱き留めた。
「どうした?」
「・・・弱視なんだよ。この目。こっちの目と釣り合わなくて」
「そうか」
弱弱しく笑う光忠に手を差し出す。
どうせ、格好悪いと思っているのだろう。
・・・そんな事、あるはずもないのに。
「秘密にしてやる」
「・・・長谷部、くん?」
「目の事。眼帯の下の事は・・・秘密だ、俺たちだけのな」
ぽかんとする光忠に顔を近づけて笑う。
次第に光忠も小さく笑い出した。
「俺たちは刀だ。・・・しかし、この形は人でもある」
「うん?うん」
唐突に言う長谷部に光忠は首を傾げつつも頷く。
「俺は人の愛し方を知らない。しかしお前は人型で、俺もそうだ。俺はお前を愛したい。だから、お前に愛しいところを見つけて、そこから愛していきたいと、そう思う」
「・・・長谷部君らしいね」
くすりと光忠が笑った。
「この手を離すなよ」
「ふふ、これも僕たちだけの秘密かな」
顔を見合わせて微笑みあう。
長谷部が差し出した手を握った彼は、もうよろけたりはしなかった。




我々は人の愛し方を知らない。
ならば、愛し方から始めましょう。
まずは手をつなぐところから。


「へし切、何やって・・・あー!燭台切さん眼帯外してる!」
「へえ、光忠さんのそっちの目は長谷部さんと一緒なんだ」
「・・・清光君、安定君・・・?!」
「・・・。・・・お前らこそ何をやっているんだ、加州、大和守」

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