君に花を(獄都事変SSS

きょろきょろと辺りを見回す。
この辺りは危ないから行ってはならないと肋角に言われているのに。
「・・・いた」
草むらに入って暫く歩いていたが、漸く目当ての人物を見つけた。
「・・・田噛」
「・・・。・・・斬、島?」
呼びかけるとほんの少し驚いたように彼は起き上がる。
大方此処で寝ていたのだろう。
斬島と揃いの服を着た・・・今日は式典があるとかで・・・田噛が目をこすりながら「それ、なんだ」と問うた。
「・・・どれ」
「あたまのやつ」
指摘されて頭に手をやると、先程もらったそれが手に触れる。
色とりどりの花で出来たそれは花冠と言う奴で、式典の途中暇を持て余した平腹が野原に飛び出して花を摘みそれを佐疫が編んで拵えたのだった。
教えてもらったが佐疫ほどは上手く出来ず、器用なんだな、とぼんやり思う。
「ああ。・・・佐疫にもらった」
「もらったって」
「田噛のもある」
少し嫌そうにする田噛の頭にも花冠を乗せてやった。
さら、と風に揺れる。
「田噛」
「なんだよ」
「・・・にあってる」
斬島の言葉に田噛は嫌そうにそれを頭から引きずりおろした。
「あ」
「・・・うれしく、ねぇ」
そう一言いうとぶすくれる。
橙の眸が眇められた。
「こういうのは・・・おまえだけでいい」
「?そうなのか?」
「ああ」
こてりと首を傾げると田噛は頷き、手に持ったそれをどうするのかと思えば。
「・・・やる」
一言、そう言って斬島の頭に乗せる。
もう一度頭に手をやれば花冠が二つ、乗っていた。
「田噛は・・・」
「なんだ」
「おれが、つくったのもうけとってくれないのか」
しょんとしながら聞くと田噛はもう一度目を細める。
それから手を差し出した。
「?」
「あたまにはのせないがうけとってやる」
そう言う田噛に心が、ほわりと暖かくなる。
花冠の青と橙の花が・・・揺れた。

name
email
url
comment