食事(へし燭SSS・ワンドロお題)

「おーまえさーー俺の皿から取るのやめてくんない?!」
「いーじゃん、減るもんじゃなし」
「減ってるだろ、現に!!!!」

「・・・何をやってるんだ、あいつらは」
目の前で繰り返される口論に長谷部は心底呆れたように呟いた。
「ふふ、仲良いよね」
「仲良いか?あれ」
くすくす笑って隣に座る光忠に返す。
「・・・。・・・燭台切」
「はい」
名を呼んで手を出しただけで彼はすっと醤油を差し出した。
言わずとも必要としている物が分かる辺り、長谷部をよく知っていると言うべきか。
そういえば光忠が作るおかずは長谷部が好む味であることが多かった。
光忠はいただきますと手を合わせたがすぐに長谷部を見つめる。
「長谷部君、綺麗に食べるよね」
「そうか?」
「うん。見てて気持ちいい」
機嫌良く笑う彼は、一番遅く来ては一番早く食べ終わり、食べている間も見ているだけの事が多かった。
曰く、「誰かが食べているのを見るのが好き」らしい。
・・・長谷部にはよく分からないが。
ふと彼を見ると、また箸が止まっていた。
もう食わないのかと思えば遠くをちらちら見ては何かを悩んでいる。
「どうした」
「えっ?」
声を掛ければびくりとこちらを見、「何でもないよ」と笑った。
彼はいつもこんな笑みを見せるがそれにしてはおかしい。
見ていた先にある大皿は長谷部が作った煮物だった。
そう言えば食べるのを楽しみにしていたか。
どうせ皆に遠慮しているのだろう。
・・・まったく。
「・・・ほら」
「・・・え・・・?」
煮物を摘み上げ、長谷部は不思議そうな光忠の口の前に持っていった。
「食いたいんだろう?」
「・・・あ・・・」
そう聞けば彼は顔を紅くさせる。
ばれていないと思ったのだろうか。
「取って欲しいなら言えばいいだろう」
「・・・でも」
「皆の分がなくなると思ったか?山程作ってあるし、お前がもっと食いたいならまた作ってやる。・・・まったく」
はあとため息を吐き出して、ずいと箸を突きつける。
少し困ったような表情をした光忠がおずおずと口を開け、そこに煮付けを放り込んだ。
「どうだ?」
「・・・美味しい」
顔を綻ばせる光忠に長谷部は頷く。
「見ているだけじゃなくお前も食え」
「え?」
「俺だってお前が食っているところを見たいんだ」
きょとりとする光忠に小さく笑い、彼の皿に先程の煮物を入れてやった。
うん、と笑う彼に、「食っている姿がえろいから」とは言えず・・・長谷部は頬杖をつく。
それに箸を咥えたまま光忠が首を傾げた。
「なあに?長谷部君」
「いや、何も」
小さく笑い、光忠の顔を見つめる。
なるほど彼の気持ちが少しだけわかったような気がした。




(いっぱい食べる君が好き!)

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