おはよう/朝(へし燭SSS・ワンドロお題)*大太刀長谷部×織田時代光忠

初めて見たのは主が刀を収集している倉庫の中だった。
付喪神として、初めて顕著した・・・長船の一振り。
「おはよう、光忠。長船の子よ」
「・・・?」
藤色の目をぼんやりとこちらに向けて不思議そうに首を傾げる。
細い腕を持ち上げ、己の喉元に少年の手を当てた。
「お、は、よ、う」
「・・・ぉ・・・?」
「お、は、よ、う」
「ぉ、あ、よ・・・?」
掠れた声で、同じように紡ぐ少年。
これが、彼が顕著し付喪神としてこの地に下りてから発した初めての言葉になった。

それから毎日通いつめ、何度もそれを教え込む。
「ぉ、はよ・・・?」
「ああ、おはよう、光忠」
小さな刀が覚えたての言葉で言ってくるのが可愛らしかった。
近頃は発音がうまくなったように思う。
後少しだろう。
「お、は、よ、う」
己の喉に光忠の手を当ててやり、今日も教え込む。
「お・・・は、お、ぅ」
「よ、の口はもっと小さく、こう、だ」
「よ・・・?」
「上手いぞ、光忠」
必死に模倣する少年の髪を撫でた。


神として生まれ落ちた光忠に初めての「おはよう」を。

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