海(へし燭SSS・ワンドロお題)

海は広く、大きいらしい。


「はぁ?海?」
「うん、海」
俺のそれに、光忠がこくりと頷いた。
珍しく光忠が行きたい場所があるとか言い出すから聞いてみればこれだ。
「なんだ、いきなり」
「前に書物で読んだんだよね!」
にこり、と光忠が笑った。
えっと、と少し上を向く。
「川より広くて水が塩の味するんだって」
「ほう」
機嫌良さそうに光忠が言うから俺も少し興味が沸いた。
海、か。
「行ってみるか?」
「え?」
俺の提案に光忠がきょとりと目をしばたかせた。
「いいの?」
「ああ、たまにはな」
笑ってやれば彼が勢いよく抱き付いてくる。
ふわりと揺れる、黒の着流し。
井の中の蛙に大海を知られては困るのだ。
「楽しみだね、海」
「そうだな」
無邪気な光忠に俺は笑う。
海のように、綺麗なだけではない…深く闇より濃い色をにじませて。


明日は海へ行こう。

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