夢の続きを(メイルカ)

「おめでとうございまーす!!」
「…あら」
「運強いわねえ」
ぽかんとする末の妹…巡音ルカに私はくすくすと笑って見せる。
「どうしましょう、メイコ姉さま」
「まー、海外旅行が当たった訳じゃあるまいし…よしんば当たったら皆で行けばいいじゃない?」
困惑の表情を浮かべるルカに私は言った。
ルカは心配性なのよね。
「そ、そうですが…」
「でも商店街の福引なんてせいぜい近場の旅館、ってトコよねぇ」
「…ふふ、メイコ姉さまったら」
ぼやく私にルカは笑みをこぼす。
やっぱりこの子には笑顔が似合うわ。
「ところで何等だったの?」
「3等ですわ」
にこりとルカが言う。
近所の商店街で行われる福引券を買い物途中にもらったから二人で引いてみた…結果がこれ。
ちなみに私は5等のさくらんぼだった。
まあまあいいところじゃない?
「3等ってことはお米くらいかしら」
「どうでしょう…?」
「何にせよ、荷物もちがいるわね。…っと、もしもしカイト?私」
笑うルカにそう返して私はスマホを操作する。
電話した相手は弟…っていう位置かしらね、一応…のカイト、のはずだったんだけど。
「あら?レン?私間違えた?え?違う?まあいいわ。ちょっと商店街までよろしくね」
耳に聞こえるもう一人の弟、レンに言って私はさっさと切り上げる。
「レン兄さま今日はオフの日では…」
「いーのよ、どーせカイトといちゃいちゃしてんだから」
私のそれにルカがまあ、と笑った。
「お待たせ、お嬢さん!」
「ありがとうございます…あら」
店の主人が出してきた紙切れにルカが目を落とす。
綺麗なアクアマリンが丸くなるのを見、私も横から覗きこむ。
「…随分良いものねぇ?ルカ」
私のそれに困ったような顔をするルカの手にあったのは…ペアのディナーチケットだった。




「何やってんの?」
「早かったわね、レン」
「レン兄さま」
金髪をひょこりと跳ねさせた少年、鏡音レンが少しぶすくれながら私たちを見る。
「公園で休みたいがために俺呼んだんだったら怒るからな」
「んなわけないでしょ」
レンのそれに私はからから笑った。
取り敢えず商店街から一番近い公園に移動して、チケットについて話し合っていたのだけど、まだ纏まっていないのよね。
「ルカがね、ペアのディナーチケット当てたのよ」
「ふぅん?良かったじゃん。それ、今日のやつ?」
「…そうなんです」
「じゃあ兄さんに米無しでいいっつっとくわ。俺らも食べに行くし」
「え?」
「へ?」
「あ?」
私から荷物を受け取ったレンが自転車に乗りがてら言ったそれに私たちは疑問を返す。
「行くんだろ?ディナー」
「え?けれど」
「行ってくりゃいいじゃん。今日はミク姉ぇもリンもマスターたちとPV弾丸ツアーなんだから」
あまりにもあっさり。
でもまあ…そうね。
「ありがと、レン」
「ルカ姉ぇ困らせ過ぎんなよ、メイ姉ぇ」
「え?え??」
片手をあげる私、さっさと自転車に乗るレン、おろおろするルカ。
「…と、言うわけで」
レンを見送ってから私はぴょんとベンチから立ち上がって、ルカに手を差し出す。
「デートしましょ、私と」
「メイコ…姉さま?」
「あら、私とは嫌かしら」
くすくす笑えばルカは慌てて、そんなことないです!と言った。
ふふ、可愛いわぁ。
「…メイコ姉さまとデートなんて、夢みたいですわ」
ルカが顔を綻ばせて私の手を取る。
…ああ、なんて。
「かっわいーわね、ルカは!」
「きゃっ」
勢い良く引き上げて、そのままふわりと体を舞わした。
白のフレアスカートが風に揺れる。
「まだ時間あるわよね。ウィンドウショッピングでもする?」
「はいっ」
可愛らしく私の腕の中で笑うルカ。
そうね、なんだか夢みたい。
くすくす笑って、私たちはどちらともなく手を繋いだ。
いつもなら恥ずかしがるのにね、ルカは。
デートって言ったからかしら。
本当、可愛い。
「ルカ、何処に行きたい?」
「私はメイコ姉さまが行きたいところなら何処でも」
「私は可愛いルカと美味しいお酒を堪能出来るなら何処でもいいわ」
「まあ」
ふわふわ、ルカが笑う。
結局、そのチケットが使える店が入ってるショッピングモールをぶらぶらと廻ることにした。
まあ小物雑貨店やアクセサリーショップは見てるだけでもそれなりに楽しいわよね。
実際、ぬいぐるみを抱き締めて笑うルカを見るだけで幸せだったし。
そのうちルカがお手洗いに行きたいと言うから私はトイレがある前の店で時間を潰すことにした。
「ん?」
私にはあまり興味のないアクセサリーショップだったんだけど…その中のひとつに目が止まる。
これ。
財布の中身を確認して私は店に入った。
…これくらい、許してほしいわね?
「お待たせしました、メイコ姉さま」
「いーのよ」
店から出た瞬間トイレからルカが出てくる。
危ない危ない。
「行きましょうか?」
「はい」
ルカが何度目かの笑みを見せた。
パールピンクの髪が揺れる。
幸せだ、と思った。



「夢みたいですわ」
食事もあらかた終わり、ルカが、ほぅ、と息を吐く。
通されたのは最上階、夜景が見える窓辺だ。
商店街の福引きにしてはなかなかじゃない。
「さっきも言ってなかった?」
「だって」
私のそれにルカがくすくす笑う。
「メイコ姉さまとデートして、この様な素敵な場所で食事なんて…夢みたいで」
「あら」
可愛いことを言ってくれるルカに私は笑って、さっき買ったものを取り出す。
「メイコ姉さま?」
「サプライズプレゼント…かしら。腕出して」
「…まあ」
チャリ、と金属音を立て、私はルカの手首にそれを巻いた。
金とローズクォーツの小さな石が光る、然り気無いブレスレット。
「ルカの髪の色にしてみたのよ。似合うと思って」
「そんな、高かったのでは…」
「んなわけないでしょ。ほら、色違いよ」
慌てるルカに笑って私は腕を上げた。
ルカに買ったら私も欲しくなったのよね。
ちなみに私は金とガーネットだ。
「ふふ、やっぱり良く似合うわ」
「メイコ姉さま…」
腕を持ち上げてキスする私にルカがとろりと破顔する。
「好きよ、ルカ」
「…私もですわ」
笑う、可愛らしい私の天使に、囁く。



こんなに可愛いのに、帰せるわけ、ないじゃない?



「私と、夢の続きを見てくれないかしら」

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