風邪(へし燭SSS・ワンドロお題)

光忠が倒れた。

それを聞いたのは遠征途中の道すがらだった。
倒れた。
光忠が。
…いつ?
…なぜ?
戦闘中か、遠征中か、それとも。
逸る気持ちを抑えきれず、それでも一人だけで帰るわけにもいかず、結局本丸に辿り着いたのは夜も更けた頃だった。
「…光忠!」
「…しーずーかーに」
勢い良く襖を開けた長谷部に言ったのは口に人差し指を当てた安定である。
隣には安定の膝枕で寝息を立てている清光、奥には穏やかな顔で寝ている光忠がいた。
ほっとへたりこむ長谷部に安定が小さく笑う。
「風邪ですよ。ちょっと前から調子悪かったみたいで。さっきまで清光が看病してたんですけど…もう大丈夫ですね」
「…そうか。すまない」
安定に礼を言い、そっと光忠の髪を撫でた。
風邪、といってもどうせ限界まで無茶をしていたのだろう。
まったく。
風邪の如きが一番危険だと彼も分かっているだろうに。

「…早く、治せ」
そっと持ち上げた髪に口付ける。
起きた彼に粥でも、と立ち上がった。

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