退魔師長谷部×妖狐みつ  番外 へし切長谷部×妖狐みつ

控えめに戸を叩く音がした。
振り返って「入れ」と言ってやる。
「うわっ」
「…へし切、さまぁ…」
その様相を見て思わず声を上げてしまった。
…また派手に…。
はあ、とため息を吐いて呼び寄せてやる。
ぐすぐすと泣いて部屋に入ってきたのは可愛らしい少女だった。
燭台切光忠に似た、妖狐の少女。
彼女の名はみつ、という。
偶然作動した本丸の蔵と彼女の家の物置の印がどうやら呼応したようで、此方と彼方が行き来出来るようになった…らしかった。
何故そんなことが出来るようになったのかは定かではない。
まあ偶然の産物だろう。
それはまだいい。
問題は此処からだ。
今と変わらぬぼろぼろの彼女を発見したのは偶然にもと言うかなんというか…遠征帰りの俺だった。
蔵の方から声がする、という加州清光と大和守安定と共に向かった先で見つけ…みつは俺を見て一言「ごしゅじん、さま?」と言ったのである。
お陰で『浮気ならまだしも光忠に相手にしてもらえない鬱憤を幼気な少女にぶつけ凌辱強姦しあまつさえ奴隷扱いし蔵で飼っている最低外道』という烙印を押されるところだった。
誰が光忠に相手にしてもらえないか、全く。
…まあ、それはいい。
ともかく、彼女自身が違うと訂正し、疑いは晴らされた。
どうやら彼女の世界にも俺に似た人物が居るらしく、そいつが主人だったようだ。
それがまた外道の極みというか…退魔師、という職業を踏まえてみても…まあ出会ったことはないのだが。
退魔師、妖を狩り報酬をもらう男。
何がどうなって妖であるみつを傍に置いているのかは分からなかった。
綺麗な狐を己のものにしたいだけの独占欲、ただそれだけで傍に置いているだけかもしれない。
そんなことは俺が知るところではなかった。
光忠は同じ顔のこの少女をいたく気に入り、来る度に色々菓子を出しているらしい。
最初は怯えていたみつも光忠や加州、大和守には早々に慣れた。
彼女は退魔師が仕事の時に度々こちらに来ているらしい。
見つからないのだろうか、とも思うがそれは藪蛇、というやつだろう。
俺には大分かかったが…まあそれはそうだろう、酷いことをする男と同じ顔なのだから…こうして部屋に来るまでには慣れたようだ。
…で。
「…ほら、着ておけ」
「…は、ぃ…」
「……今日はどうした」
裸同然でやって来た彼女に着ていた服を差し出した。
近づき、服を受け取ったみつに座るよう促す。
へたり込んだみつは見るからにぼろぼろで、長かった髪が無残にも切り落とされていた。
白い太腿からは可哀想にこびりついた血の跡と白濁が伝っている。
可愛らしい顔には涙の痕、滑らかな肌につけられた新たな傷跡と鬱血痕。
…凌辱を受けそのまま来たのだろうか。
「……ごしゅじん、しゃま…に、おかされ、た」
「…見れば分かる。髪は?何故切られた」
「…僕、が……悪い、の。僕が、逃げちゃって…だか、ら……」
お仕置き、と小さく言うみつはまだ怯えているようだった。
…お仕置き、な。
ため息を吐き出し、震える肩を抱き寄せてやる。
一瞬、大きく体を跳ねさせた彼女の背を撫でてやった。
徐々に小刻みに肩を揺らし、そして。
「…っく、ふぇ…ご、しゅじん、さま…こわぃ、の…わかんないよぅ…!!」
「……みつ」
「…もうやだ!もうやだぁ……っ!!おかされたく、なぃよぉ…!っくは…みちゅは、おもちゃ、じゃなぃ…っ!!ぃたい、いたい、いたいぃ……ふぇっ、ぅぁあ…っ!!!」
「…あー…」
泣きじゃくる妖狐に俺は頭を掻く。
どうにもこの顔には…弱い。
背を撫でてやりながら泣き止むまで待った。
言葉をかけても無駄なのは知っている。
…それにしても…犯されたくない、か。
この少女の中で性行為は拷問にも等しいそれになっているのだろう。
可哀想に。
(甘くしてやれば一発で堕ちるだろうに、な)
ふっと思いながら髪を撫でてやる。
愛に飢えた妖狐の娘は甘く甘く愛してやれば堕ちていくだけだろうに、と。
騙してでも愛して、理性を壊してやれば良い。
中途半端に理性を残すからこうやって拒絶するんだ。
ああ、可哀想に。
半端な優しさに振り回されて。
こんなにぼろぼろにされて。
「…ぐすっ、ひっく、ふぇ……」
「大丈夫か?みつ」
「…ん…」
ずいぶん泣き続けたみつは涙を拭う。
「…ご、めんなさぃ……」
「構わん。あまり目を擦るなよ。紅くなる」
金色の綺麗な目を擦るみつに言って頭を撫でた。
短くされた髪がさらさら揺れる。
「怖いなら逃げてしまえばどうだ」
「…。…にげたら、余計酷いことされちゃう…。わかって、るのに」
くしゅ、と鼻を鳴らすみつは健気でどうにも真面目なようだった。
「…な、んで…ごしゅじん、さまは僕を壊すんだと思う…?」
「ん?」
「大事だって言って。でも、僕に痛いことをする…どうして?逃げるのがそんなに悪いことなのかな…」
俺の胸にこてりと頭を寄せてみつが言う。
「…そいつの考えは分からん。だが、愛したいと思っているかもしれんぞ?」
「…え?」
それにぽかんとみつが見上げた。
「お前が逃げるから愛せなくなっているのかもしれん。…嫌なら逃げろ。嫌じゃないなら受け入れろ」
「…っ。嫌、じゃない。でも怖いのっ!…受け入れたら……僕、が…壊されちゃう…っ!無様に死ぬのは嫌!!!子ども産まされてっ!いらなくなったからって捨てられるのは嫌なの……っ!」
可愛らしい表情を歪めてみつが吐露する。
「逃げるから酷い目に合うのだろう?それを分かっていて何故逃げる。…逃げず、優しくしてと言ってみればどうだ」
「もう無理だよ……。…ぼく、は……普通に愛されたいだけなのに…」
肩を震わせるみつは何処か儚げで。
嗚呼、壊したくなるのもよく分かると思った。
「…無理、か。本当にそうか?」
「…え……?きゃっ?!」
ぽかんとするみつを膝の上に抱き上げる。
肩口に顔を埋めて噛み付き思い切り吸い付いた。
「ぃ゛…っひゃぁあぁ?!!」
みつが可愛らしい声を上げ体を跳ねさせる。
くぷりと指を膣に入れ掻き回した。
ぐちゃぐちゃと掻き回す度に白濁が飛び散る。
「…や゛ぁあああっ!!!!ゃ、めて…ぃやっ、へしっ、切ざま゛ぁ…っ!」
「何を嫌がる。お前の主人と同じ顔だろう?」
「…がぅっ!ち、がうぅっ!み、ちゅはぁ…ごしゅじん、しゃまじゃなきゃ……ゃぁああ!!!は、なし…れぇ……っ!!!!」
泣きじゃくりながら思い切り暴れる少女。
ぶわりと髪が逆立った。
強い妖気。
髪を切られてなおこれか。
「…ほら、きちんと拒絶できるじゃないか」
「……へ……?」
指を引き抜き、涙に濡れるみつの頭を撫でてやる。
「嫌な相手にはこうやって拒絶できるんだろう?」
「…ぁ……!」
金の目をいっぱいに見開き、彼女は俺を見上げた。
「拒絶できない、ということは、心底では嫌ではない、ということだ。少しずつで良い、受け入れていけば」
「…へし、切…さま……」
「ああ、怯えさせてしまったな。少し眠ると良い」
優しく頭を撫でてやりながら俺は囁く。
「…は、ぃ……」
ゆっくりと妖狐が微笑み目を閉じた。
暫くし、すぅすぅと穏やかな寝息を立て、少女は夢に堕ちる。
…ああ、可哀想に。
「…長谷部くん?」
「ん?」
控えめな声と共に襖が開けられる。
顔を出したのは光忠だった。
「…また」
光忠の綺麗な顔が歪められる。
「可哀想に。こんなにされて」
光忠の優しい声。
みつは、可哀想。
自分と違って【愛されない】から。
そうだな、と返して俺はまた彼女の頭を撫でた。
光忠は知るまい。
自分の末路を。
壊れた目で、黒い着流しを引き摺り微笑む未来を。
仮初めの幸せを胸に彼は笑む。
壊れると知ってなお逃げられない少女と、壊されることを知らない青年ではどちらが幸福なのだろうか。
都合の良い夢に逃げたみつと、嘘の平穏を過ごす光忠と。
(どちらにせよ壊れることは決まっているのに!)
優しく、黒の髪を撫でる。
ぴるぴると漆黒の耳を揺らす少女は、心底幸せそうな表情をしていた。

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