○○しないと出られない部屋、アカカイの場合(カイコク受け)

カシャン、とドアのロックが開いた音を示してからしばらく経った。
別の仕掛けでもあったんだろうかと心配し始めた刹那、ドアの影から黒い服を纏ったその人の影を確認する。
「…今度は入出か」
「はい、入出ですよー」
ほんの少しだけ渋い顔をする彼、カイコクにアカツキはにこにこと答えた。
どういう原理なんでェ、と小さく言う彼に「部屋の原理はホラーゲームをよくやるカリンさんに聞くのが一番かと」と笑ってみせる。
「ところで、随分と遅かったですねぇ。何かありましたか?…カイコクさん」
ベッドから降り、とてて、と近づいて彼を見上げた。
「…別にィ」
ふい、と逸らされる頬はほんのり赤く、目蓋と目元が濡れている。
目蓋が濡れているのは、確か前の部屋にいたアンヤが、一番最初の部屋でキスしたのがそこだったからだ。
この部屋は、【キスした場所を責めないと出られない部屋】、である。
ちなみにアカツキがキスした場所は手首だった。
彼がこんな表情をすることがまずもって珍しく、アンヤ君もやりますね、とアカツキは密かに思う。
勝手にアンヤはそういうことに興味がないと思っていたから少し驚いてしまった。
しかも相手はこのカイコクである。
綺麗な顔立ちだが立派な男だ、アンヤも嫌がったろうに、どうやらカイコクは部屋が合格判定を下す程には責め立てられたようだ。
アカツキには、二人が何をしていたのかは全く知らされていない。
どういうやり取りをして、どうやって責められたのかも。
まあ、意外と絆されやすいのか、煽った手前引けなくなったかのどちらかだろうか、などと考えているアカツキの横をカイコクが通り過ぎた。
「え?あの」
「俺ァさっさと済ませてさっさと出てぇんだ。…とっとと頼むぜ」
きょとんとするアカツキを尻目にベッドに腰掛け、カイコクが着物の袖を捲り上げる。
ムードもくそもないそれに苦笑しつつ、アカツキは彼の足元に跪いた。
「では、失礼して」
意外とほっそりした手を持ち上げ、キスを落とす。
途端に、ぴくんっとカイコクの体が跳ねた。
手全体をもみこむようにやわやわと触り、ちぅ、と吸い付く。
「ん、ぅ」
鼻にかかったような甘い声。
それを必死に押し殺しているカイコクに、何かがふつりと湧き上がった。
舌を出し、その先で突くようにして責める。
そういえば、皺を作れば唇と感触が似ているというのはどの部位だったか。
「…な、なァ…入出…っ?!」
「なんですかー?」
ぼんやり考えながら責め立てていたら上からカイコクの声が降ってきた。
見上げるアカツキに向ける瞳は潤み、どこか余裕がないようにも見える。
「カシャンって…言った……んだが…んっ!」
「えー?そうですか?」
ぽやりとした声に、アカツキははぐらかす答えを寄越した。
「俺には聞こえませんでしたよ?」
「…そ…うか」
それに納得したように再び声を噛み殺すカイコクに、余裕はそれ程残されてはいないらしい。
ふ、と気になってアカツキは一旦責めるのを止めた。
「…?入、出…?」
「ねぇ、カイコクさん。責めたって判断される基準ラインはどこなんでしょうか」
「…どこ、って…」
アカツキのそれに、カイコクが混乱しきった声を出す。
「一定の時間でしょうか。カイコクさんの見た目でしょうか。俺が満足するまで、なんて気持ちはきっと部屋には見えないと思うんです。何か、具体的な…例えば、カイコクさんがイくまで、とか」
「…っ!冗談も大概にしてくんな!!」
アカツキのそれに、カイコクが声を荒らげた。
感情を顕にすることなんかあまりない彼だから、少し驚く。
「…すまねぇ、ちっと…気が動転した」
「いえ。俺も変な事言いました」
アカツキが驚いているのに気付いたのだろう、カイコクが罰が悪そうに言った。
それににこりと笑顔で返し、彼の肩を押す。
「…っ、おいっ…?」
「でも、試してみる価値は…ありますよね?」
不安そうに見上げるカイコクの手首を掴み上げ、見せ付けるようにキスをした。
ゾッとした表情をする彼は…見ていて少し興味が湧く。
カイコクはこの後どうするだろうか。
突き飛ばして出ていこうとするのか諦めて享受をするのか。
はたまた弱々しい抵抗を示すだろうか。
「取り敢えず一定時間、責めてみます」
「…まだ、やんのかい…?」
「ドアが開かないですから。仕方ないです」
カイコクに笑いかけ、アカツキは再び舌を這わせた。
小さく喘ぎ、無意識なのだろう足をバタつかせるカイコク。
彼は知らない。
部屋の扉はとっくに次の部屋へと繋がっていることを。
「カイコクさん」
「…ふ、ぅ…ぁ…っ」
甘ったるい声を押し殺す、彼は知らない。
アカツキが…己に向ける欲望が…いかなるものか、など。


だって、それはアカツキ自身にも分からないのだから。
(ただ、知っているのはカイコクの余裕の笑みを崩してみたい…ただそれだけ)

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