black prism/ザク→→←カイ前提マキカイ

彼を見た時、僕は
驚くほど白く、美しい人だと…思った

「カイコクさんは黒、でしょう?」
きょとんとした顔をするのはアカツキ君だ。
「あー、鬼ヤローは黒だよな。なんつーか、見た目が」
アカツキ君の答えを受けてそう言うのはアンヤ君。
「白か黒かで言えば黒だな。大体、あいつが白なんて純粋たる色ではないだろう」
それを聞いてあっさりと答えたのはザクロ君だった。
「…何の話でぇ?」
と、ふわりと首を傾げて寄ってくるカイコッくん。
「お前さん方もパンツの色の話かい?」
「貴様と一緒にするな。…イメージカラーの話だ」
笑いながら言うカイコッくんに、そう答えるザクロ君…とても仲が良さそうに見える。
何だかとても…楽しそうで。
「はーん、俺のイメージカラーが白、ねぇ…」
なるほど、なんて頷いてみせたカイコッくんが優しい笑みを見せた。
「そりゃあ逢河、お前さんの買い被りだな。俺はそんな…綺麗な色じゃねぇよ」
「…黒が醜いだけとは、限らない」
カイコッくんのそれに僕は答える。
「あ?」
「ん?」
「…マキノ君?」
その声は届かなかったのか、皆は不思議そうな顔をした。
…でも。
「…それでも充分、俺にとっては白は綺麗な色なんだ」
小さく言ったカイコッくんの声は…僕だけに聞こえるもので。
ああ、やっぱり彼は白い人だなぁ、と…そう思った。

白の部屋は驚くほど、色がなかったらしい。
同じだ、と思う。
この…僕の部屋は…真逆の黒、だけれど。
黒だけの部屋に一点、白を滲ませたら何かが変わるんだろうか。
「…カイコッくん」
「…?逢河?」
僕の呼びかけにこてりと首を傾げるカイコッくん。
「なんでぇ、俺に用事でも?」
にこ、と笑うカイコッくんは僕の目を見ようとはしなかった。
僕の目は人を魅了してしまうから。
多分、何かが変わるのを…カイコッくんは酷く恐れている。
「…部屋、来て」
「…。…珍しいな、逢河がんなこと言うなんて」
少し驚いた表情をしていたカイコッくんがくすり、と笑ってそう言った。
「いいぜ。今日はゲームもねぇし。…忍霧に伝えてくらぁ」
「…ザクロ、くん?」
「ああ。…行き先は伝えておけって言われてるしな」
首を傾げる僕に、心配症なんでぇ、と笑うカイコッくん。
その表情は迷惑なんかじゃなく…少し幸せそうで。
嗚呼、なんて、白い。
「?逢河?」
顔を覗き込んでくるカイコッくんに、僕は…拳を叩き込んだ。
「ぅ、ぐぅ…?!!」
「…ごめんね」
どさりと倒れ込んでくるカイコッくんに僕はそう言う。
そのまま抱き上げてみると思ったより軽かった。
ザクロ君に細いとか言う前に自分も食べなきゃ駄目だよ、なんて今はどうでも良い思いが頭を過ぎる。
「…」
まるで陶磁器のお人形さんみたいにぐったりした彼を、僕は自分の部屋へと連れて行った。
「…ぅ…」
それから、彼が目を覚ましたのは数十分経ってからの事だった。
「…こ、こは…」
「…起きた」
「…。…あい、かわ……?」
ぼんやりしたそれはどこか幼くて。
「…何処でぇ、ここ」
「…僕の部屋、だよ」
「…逢河の…?」
疑問に答える僕のそれを、呆けた声でカイコッくんが反芻する。
まだ分かってないみたいだ。
「…なぁ、さっき…お前さん、俺を…殴らなかったか…?」
「うん、殴った」
「…。…なんで、そんな…」
あっさりと白状した僕に、呆れたような困ったような声でカイコッくんが聞く。
怒っているわけではない、純粋たる疑問。
「…来てくれないと、思ったから」
「はぁ?…俺は、約束も守らねぇ…薄情な奴だと思われてんのかい?」
「違う。…ザクロ君が」
「…忍霧?」
意外な名前が出てきた、と不機嫌になりかけていたカイコッくんが首を傾げた。
「ああ、忍霧に伝えに行って帰ってこなくなるって?…そこまで独占欲強かぁねぇよ、アイツは」
こくん、と頷く僕にカイコッくんはくすくす笑う。
「逆に逢河が心配されんじゃねぇのかい?」
楽しそうに笑うカイコッくんは…きっと多分知らないんだ。
ザクロ君がどんな目でカイコッくんを見ているかを。
その視線が、友愛のそれをとっくに通り過ぎていることを。
そして…カイコッくんも。
少し諦めたような瞳は、僕がよく知るそれだった。
「カイコッくん」
「…んー?なんでぇ…」
「愛って、何」
僕の質問はかなり意外だったみたいで、カイコッくんは動揺したように僕を見る。
「…いきなりっ、何を…!」
「…僕は、愛されなかった。喧嘩ばかりの両親、人のモノになってしまった好きな人」
「…」
「…カイコッくんは、愛を知っている?」
疑問をぶつける僕に、カイコッくんはふいと目線を逸した。
「…知らねぇな。興味もねぇ。…俺は、愛されたい訳じゃねぇんだ」
静かに感情を押し殺して告げられるそれは、嘘、でしかなくて。
「だからって誰かを愛せるとも思ってない。俺は…あれが愛、だとは認めねぇ」
低い声は、僕に向かって言っている訳じゃなかった。
…ねぇ、カイコッくんは、誰を…見ているの?
「…好きだよ。僕は、カイコッくんを…愛してる」
「…は…?」
僕の言葉にカイコッくんがぽかんとする。
「僕を見て」
「…何を…っ、寄せ、逢河!!!」
目を合わせようとする僕に声を荒げて嫌がるカイコッくん。
どうして、そんな事言うの?
「どうしたんでぇ、逢河。今日のお前さんは何だかおかしい…」
へら、と笑いかけたカイコッくんが怯えた目をして止まる。
漸く、首輪と鎖の存在に気づいたみたいだ。
「…あい、かわ?」
「好き、だよ」
おびえを含ませた烏羽色の瞳をじっと見つめる。
嫌だ、と小さく呟かれたそれは…何に対してだったんだろう。
白い白い君を真っ黒に塗りつぶしたら、僕も愛を知ることが出来るのかな。
(それはまるで、シュレディンガーの猫のようだな、と僕は思った)

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