行事に託つけていちゃいちゃしたい年下彼氏との攻防(ザクカイ)

「忍霧っ」
にこにことカイコクが嬉しそうにザクロの元へ寄ってきた。
彼はあまり感情を表に出す方ではないから、珍しいな、と思いながらも「どうした」と尋ねる。
「今日は節分でぇ」
「節分…そんなに喜ぶ行事だったか……?」
カイコクのそれに、ああ、とは思うもののやはり彼がご機嫌になる理由が分からなくてザクロは首を傾げた。
途端、キョトン、と黒曜石に似た瞳を瞬かせる。
「鰯が食えるんだぜ?後、巻き寿司だがあれも立派な寿司だ。それに、鬼を退治する伝統もある。バレンタインやクリスマスなんかより余程楽しい行事だと俺は思うがねぇ」
ふわふわと幸せそうに笑うカイコクに、ようやっと合点がいった。
甘い物が苦手で、親戚とのあれそれが煩わしいカイコクにとっては好物も食べることが出来て自分の名を存分に発揮できるそれは楽しいものなのだろう。
「…悪かったな、クリスマス生まれで」
「…。悪ぃとは言ってねぇだろ?俺ァ親戚に会うのが面倒なだけで忍霧が生まれた日を否定する気はねぇぜ」
少しばかり拗ねて見せれば綺麗な目を見開かせてからくすくすと笑い、頭を撫でてきた。
上機嫌なあまり、子ども扱いしてしまっているのに気づいていないらしい。
止めろ、と払いのけてもまだにこにことしていた。
「カイさんはー、節分生まれなんだよにゃー?」
「おっ、よく知ってるな、路々さん」
「…は…?」
通りすがりのユズがにこにこしながらそんな事を言っていて、思わず固まる。
「…誕生日プレゼント…あげる……」
「悪いねぇ、逢河」
「マキマキー、それ、節分用の豆じゃないのかい?」
「…違う……お魚ミックス……」
「あははっ、随分安上がりだなぁ!」
「俺は嬉しいから構わねぇぜ?」
夕飯にと起こされたのだろうマキノがカイコクの手に握らせ、その中身を見たユズが楽しそうに笑った。
「カイさんは魚が好きだなぁ。猫みたいだ」
「おぅ。…あ、伊奈葉ちゃんがな、鰯のフルコースを作ってくれるって…」
「貴様っ、今日が誕生日なのか?!」
嬉しそうに今日のメニューを二人に言うカイコクの手を握り、ザクロはそれを遮る。
握られたそれを見つめ、彼が不思議そうに首を傾げた。
「そうだが…?」
「何故言わないんだっ!!」
「…必要性ないだろ…??」
戸惑ったように言うカイコクは、去り行くユズの「早く終わらせ給えよ!」というそれにひらりと手を振る。
「鬼ヶ崎、貴様俺の誕生日は言ってくれれば良いとか言ったくせに」
「そりゃあまあ、あれだ、プレゼント…やりたかったし」
じっとりと見つめれば、彼はふいと顔を反らせた。
その耳が少し赤いから、ザクロはほんの少しだけ溜飲を下げる。
「俺も鬼ヶ崎にプレゼントやりたいんだが」
「そりゃあどうも。…と、言っても物欲は特にねぇし…俺ァいつも忍霧からは貰ってるしな」
「そうか…ん?!!」
カイコクのそれを一瞬スルーしそうになってがばっと顔を上げる。
…今、なんと?
「…だからっ、忍霧はいつも俺に…くれる、から!俺もだなぁ…!」
恥ずかしいことを言わせるなと言うカイコクの手をぎゅっと握った。
握っておかなければ彼は逃げてしまうから。
「…俺が、貴様に…何を渡したというんだ?」
「……聞くのかい、それを」
「…分からないからな」
「意地悪だねぇ…」
「何とでも」
くすくすと笑うと、カイコクも小さく笑った。
「…お前さんは、俺の欲しいものをくれる。…いつだってな」
「それが何かを聞いているんだが?」
「色々、ってことにしといてくんなァ」
「なんだそれは」
綺麗に微笑む彼が、それ以上は言わないと言外に伝えるから、まあ良いか、とザクロは手を離す。
…後で…じっくり聞けば良いのだし。
「あ」
「ん?」
ある事を思い出し、声を上げるザクロにカイコクが首を傾げた。
「鬼ヶ崎、少し良いか」
「構わねぇけど…?」
疑問符を浮かべながらもカイコクはザクロに付いてきてくれる。
信頼しているのは有り難いが…こんなにチョロくて大丈夫だろうか。
「…外?」
「すぐ済むから」
ゲノムタワーの玄関を出てすぐの生け垣に行き、ザクロはそこに置いていたものをそっと取り上げた。
「こりゃあ…」
「ヒイラギの冠だ。…ヒイラギは鬼から、魔の物から守ってくれる。貴様は鬼を斬るんだろう?だったら、俺に貴様を護らせてくれ」
「…!おし、ぎり」
驚いたように目を見開き、それから綺麗に笑う。
「…ああ、よろしく頼む」
「!ああ!!」
目をつぶり、少し屈んだカイコクに、ザクロはそっと冠を被せた。
まるで…戴冠式のようだ、なんて。
彼はきっと自分を犠牲にして鬼から皆を守るのだろう。
ヒイラギの冠を被ったカイコクは、圧倒的に美しく、気高くて。
そんな彼を護る事が出来るのは…幸福だな、と思った。
「誕生日おめでとう、鬼ヶ崎」
「…今かい?…ありがとな、忍霧」
綺麗で美しい彼が、いつまでも自分の隣で幸せで居てくれたら良い、とザクロは笑う。

「それで、プレゼントは夜で良いか?」
「?まだあんのかい?そりゃあ有り難てぇが…」
(小首を傾げたカイコクが、プレゼント、の意味を知るのは…数時間後のお話)

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