ワンドロ隔週/雪・クリスマス

「…あ、雪だ」
セカイから出てきた瞬間、ちらちらと舞うそれが頬に触れ、彰人は空を見上げた。
通りで寒いと思ったら。
隣を見れば同じように見上げる冬弥がいて、思わず笑う。
「ちゃんと着とけよ」
「…分かった」
ほら、とマフラーを投げて寄こせば冬弥は素直に頷いた。
これは彰人のものではないのかとか彰人は寒くないのかとか色んな感情を押し込め、冬弥なりに彰人の思いを汲んでくれたらしい。
「…なぁ」
「おー?」
代わりに冬弥があらぬ方向を見つめながら彰人に話し掛けてきた。
返事をしつつ、彰人もそちらを見やる。
「…クリスマスツリー?」
「…いつの間にか立派なものができていたのだな、と」
首を傾げる彰人に、冬弥が小さくそう言った。
あまりこの辺りを通らない冬弥は知らなかったようだがこの時期は毎年巨大なクリスマスツリーが立つのだ。
「大体、ハロウィンが終わったら準備始まるからな」
「…知らなかった」
ほう、と息を吐く冬弥が僅かに微笑む。
「なー、冬弥。クリスマスデートしようぜ」
「…今日はまだ前誕祭ではなかったか?」
手を握り、笑い掛ければ彼は小さく首を傾げた。
細かいことは良いんだよ、とその手を己のポケットの中に突っ込む。
「あわてんぼうのサンタクロースってのもいるし」
「…彰人がそんなことを言うなんて、珍しいな」
小さく目を見開いた冬弥が小さく微笑んだ。
そうか?と首を傾げるが、たしかに普段はそんなことは言わないかもしれない。
まあ柄にもなく浮かれているのだろうな、と頭の片隅で思った。
何せ、冬弥の恋人になって初めてのクリスマス、なのだから。
それがホワイトクリスマスなんて運命にもほどがある。
「どーせ明日はセカイでクリスマスパーティだとかするんだから、今二人で楽しんどかなきゃ損じゃねぇ?」
「…。…そうだな」
彰人のそれに冬弥が笑みを浮かべた。
俺も浮かれているかもしれない、なんて言いながら、ポケットに入っている手がぎゅっと握られる。
「…俺も、彰人とクリスマスデートを…楽しみたい」
目を細める冬弥の、頬が色づいているのは寒さでかそれとも。
ちらちらと雪が舞う。
ツリーの飾りが煌めく、そんな景色の中で。
軽く、触れるだけのキスを、交した。
「行こうぜ」
「…あぁ」
彰人の短いそれに冬弥が頷く。


クリスマス前夜、手を握りあった二人は雪降る街に消えた。
その行方は…見守っているイルミネーションの輝きだけが知っている。

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