オレは大変なやつに恋をしてしまったらしい(冬弥総愛され)

声をかけた瞬間、ふわりと振り向いたその顔に。
「ああ、貸し出しか」と発されたその声に。
有り体に言おう、オレは青柳冬弥に恋をした。


どうも、神山高校のモブです。
あまり学校に来ないオレが最近になってせっせと通っているのには訳がある。
それが、図書室のお人形こと青柳冬弥に恋をしたから。
いや、男だっていうのはわかってる。
分かってるけど好きになっちゃったもんはしょーがない。
ただ、だ。
「…はぁ」
オレはため息を吐く。
ただ青柳冬弥にはかなり強力なボディガードがいた。
まずは東雲彰人。
クラスは別だがしょっちゅう青柳冬弥と一緒にいる。
どうやらコンビで歌を歌っているらしく(ストリートミュージックとかいうらしい、オレにはよく分からん)、彼の傍にはいつも東雲彰人がいた。
一度なんて声をかける前にジロリと睨まれたっけ。
なので近付きたくても近付けなかった。
そして次に天馬司。
2年生で青柳冬弥とは幼い頃から知り合いらしい(と、本人が言っていたのを偶然聞いた)
出汁に使ってやろうと「なぁ!青柳冬弥ってアンタか?天馬先輩が呼んで…」と嘘をつき呼び出そうとした…が。
「…38点。まるで駄目だ」
「?!」
背後から囁かれオレはびっくりして振り返る。
そこには絶対零度の表情を笑顔に戻した天馬司が立っていた。
「…司先輩?」
「冬弥!!すまないな!オレとしたことが自分で呼びに行かず後輩を使ってしまって!スターたるもの、愛しい後輩は自分で迎えに行かねばな!」
はっはっは!と大袈裟に笑って青柳冬弥の腰を抱く。
いなくなる姿を見て、やられた、と思った。
それから最後に神代類。
天馬司と同じ2年生だが、東雲彰人や天馬司ほど親交があるわけじゃない。
なのに図書室にはしょっちゅういるから一度だけ「神代先輩とどんな関係なんだ?」と聞いてみたことがある。
ライバルは少ないに超したことはないし。
「…?どんな、とは」
「ほら、神代先輩って変な噂あるからさ、青柳がもし…」
「…もし、なんだい?」
きょとんとした声に、応えてくれた!と口を開くオレに頭上から声がした。
ひっ、と聞いたこともない声が漏れ出る。
「…神代先輩」
「やあ、冬弥くん。少し探して欲しい本があるのだけれど」
「分かりました。どれですか?」
カタン、と立ち上がる音を聞き、オレはここにいてはいけないと悟った。
…まだ、死にたくはないし。
はぁ、と深いため息を吐く。
少しでも話が出来れば良いだけなのに。
それだけ…。
「…なぁ」
「?!!」
背後から声をかけられ、オレは驚いて振り返る。
そこには青柳冬弥が立って、いた。
あの日、声をかけた姿で。
あの日、聞いた声で。
青柳冬弥が、そこに。
オレは無我夢中だったんだと思う。
邪魔されたくない一身で、気づいたら近くの体育倉庫に拉致っていた。
やっちゃった、という思いが脳裏を過る。
だがやってしまったんだからしょうがない。
「…何故、こんなところに?」
「好きなんだ!オレ、アンタが!!」
首を傾げる彼に、オレは叫んだ。
ますます、よく分からないという顔をする。
「…。…俺には良くわからないが…好きな相手をこんな場所に連れ込むのか?」
「え、あ、いや」
「この告白には拒否権はないように思うが…間違っているだろうか」
さら、と綺麗な髪が揺れた。
「…拒否りたいのかよ」
「そもそもよく知らない相手だ。拒否も何もない。それに、俺には…」
淡々と言葉を紡ぐ青柳冬弥にイライラする。
正論をぶつけられて、そうだなと笑って解放すると?
…しないよなぁ?
「お前さ、自分の立場分かってねぇんじゃ…!!」
「…分かってねぇのはそっちだよなぁ?!!」
胸倉を掴んだ瞬間だった。
鍵をかけていたはずのドアがブチ破られる。
光の向こうに見えたのは、怒りゲージMAXな東雲彰人。
「可愛い可愛い冬弥に何をしているのか…説明してもらわねばなるまい?ん??」
「そうだねぇ。その場で告白、くらいなら冬弥くんも断るだろうし見逃してあげる気だったんだけど。…覚悟は…出来ているのかな?」
その背後から出てくる笑顔の2年生コンビ…天馬司と神代類。
それを見てオレは悟る。
…やべぇやつに喧嘩を売ってしまったのだと。
そうしてオレは死を覚悟した。  


結論からいえばオレは死ななかった。
何故かといえば当の青柳冬弥が止めたから、である。
「…すまない。俺が気づいた時点で断れば良かった話なんだ。付き合うのは無理だ、と」
すまない、と深々と頭を下げられ、オレになにができる?
「…冬弥」
「彰人。それに司先輩に神代先輩も」
「怪我はないか?冬弥」
「大丈夫かい?冬弥くん」
ぎゅうう、と抱き着く東雲彰人と、その周りに集まる天馬司と神代類を見て、オレに何が出来ようか。
「お前さぁ、無茶しすぎなんだよ…心配すんだろ…」
「無茶など…。…すまない」
ふっと微笑みそれを受け入れる青柳冬弥を見て。
「先輩方も心配かけてすみません。俺はこの通り平気です」
「だが、一歩遅ければ大惨事だぞ?」
「そうだよ?ちゃんと気をつけないと…」
「彰人や…先輩方が来てくれると信じていましたから」
優しく笑う彼に、全員、そういうトコ、と思った。
「それに、俺も男です。何とかしますよ」
「どう何とかすんだよ、お前は…」
「?身長は彰人より高いんだが」
「身長だけじゃどーにもなんねぇよ!!」
怒鳴る東雲彰人を見て思う。
一般人Aのオレに付け入る隙はないのだ、と。
「ったく、ほら行くぞ」
「まあ、無事で良かったよ」
「ふっふっふっ、オレの助けが早かったからだな!」
「はぁ?何言ってんだよ、アンタ。こじ開けたのはオレだろ」
「そもそも開ける道具を持って来たのは僕だけれどね…」
青柳冬弥を囲んでわいわい話す3人には敵わないのだ。
だって。
「…次やったらコロス」
囁かれる声が、あまりに恐ろしかったから。
どうやらオレの初恋は叶わない…らしい。



図書室のお人形には鉄壁のボディガードがいると噂になるのは…また別の話。

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