不穏系彰冬

箱庭療法を知ってるか?


「っと。…ミクたちはいないみてぇだな」
トン、とストリートのセカイに降り立ち、彰人はきょろきょろと辺りを見渡した。
「…そうだな」
一緒に来た冬弥がそう返してきて、彰人はゆっくり伸びをする。
「杏は部活の助っ人、こはねは学校行事だし…久しぶりにゆっくり練習出来るな」
「…ああ」
彼に笑いかけようとした彰人は、冬弥の歯切れが悪い事が気にかかった。
何かあったのだろうか?
「冬弥?何かあったのか」
「…。…別に、何も」
「何もねぇ奴はそんな顔しないって、何回も言ってるだろ」
聞けば暗い表情で首を振るから少しムッとした。
呆れながらも辺りを見渡し、近くにあったベンチに座らせる。
…もう少し頼れば良いのに。
そう、思った刹那。
ポロポロと冬弥の綺麗な瞳から涙が零れ落ちた。
思わずギョッとする。
「なんだよ、泣く事ないだろ?!」
「…え?」
声を上げれば冬弥はきょとんと彰人を見上げた。
「…俺は…泣いてなんか…」
「じゃあその涙はなんなんだよ」
はぁ、とため息を吐きながら彰人は冬弥の涙を拭う。
その行為でようやっと自分が泣いていることに気が付いたようだ。
「…あ…すまない」
「別に良いけど。どっか痛いとかじゃあないんだな?」
「…あぁ」
「ん、なら良い」
確認すれば冬弥はこくりと頷く。
それに今度こそ笑いかけ、彼を抱きしめた。
「…あき、と」
「気付かない内に疲れてたんだろ。ちょっと休めよ」
「…分かった」
背を優しく叩いてやれば冬弥は柔らかく頷き、少し体を預けてくる。
次第に体の力が抜け、完全にこちらへもたれ掛かってきた冬弥を抱き上げた。
冬弥は知らずにストレスを溜める節がある。
だから。
今日も誰も干渉しないセカイに連れてきた。
彼の音楽プレーヤーを抜き取り、ポケットに終い込む。
(だって、彼の音楽プレーヤーは役目を終えたのだから)


「…なんだよ、バレたかと思っただろ」
くすくす、彰人が笑う。
冬弥には聞こえないように。
涙を流した時はヒヤリとしたが何のことはなかった。
「冬弥はオレの相棒だもんな」
ハイライトを亡くした目で、彰人は嗤う。
眠る冬弥の髪を弄りながら。
世界に居ては彼は傷ついてしまう。
知らずに疲弊していく冬弥を見るのは嫌だった。
涙の一つまで誰にも渡さない。
だから、セカイに閉じ込めることに、した。
(彼が自分だけを見て感じて思ってくれる空間なんて、最高じゃないか!!)
セカイは色を変えていく。
そういえば、想いが関係しているのだっけ、と思い出し、彰人はニッと笑った。

想いが壊れた、ストリートのセカイで二人切。

雨のような電子音だけが遠くに響いていた。



箱庭療法を知ってるよ。
(誰かに見せる事はないけどな!)

name
email
url
comment