ワンドロ/正月・羽根つき

「…いっくよー!リン!」
「どーんと来い!!」
カコン、という小気味良い音がセカイに響く。
正月定番の遊び道具である羽根つきを、バーチャルシンガーであるリンやレンがいたく気に入ったようで。
「…あいつら、良く飽きないな?」
「そうねぇ。まあお正月なんてそんなものでしょ?」
呆れる彰人に、MEIKOがクスクスと笑う。
確かに、と思うが返事はせず、入れてもらったカフェオレに口を付けた。
「ねーねー、彰人くんと冬弥くんだったらどっちが強いの?」
ひょこりと顔を出した…どうやら彼女の勝ちで終わったらしい…リンが無邪気に聞く。
「…は?」
「羽根つき!こないだはダブルスだったでしょ?1対1だとどっちなのかなって!」
「…それは、彰人だろう」
口を開く前に冬弥が答えた。
「そうなの?」
「ああ。スポーツはあまり得意では無いからな」
「ふぅん。冬弥くん、ダンスは上手なのにね!」
カラカラとリンが笑う。
そうだな、とそれに対し冬弥が微笑んだ。
「じゃあさじゃあさ、オレと組もうよ!」
顔を拭いていたらしいレンが冬弥の腕をつかむ。
「…レン?」
「あー!ずるーい!じゃあわたしは彰人くんと組むー!」
「はぁ?おまっ、勝手に…!」
「あら。じゃあ勝った方に新作のデザートを進呈するわ」
文句を言おうとする彰人にMEIKOが笑んだ。
こうなっては勝負する他ない。
はぁ、とため息を吐き、冬弥を見やった。
「…お前は?良いのかよ」
「…。…せっかくだからな。彰人と戦うなんて、今後もあるかは分からないだろう?」
「まーな。やるからには本気で行くぜ」
「…分かった」
ニッと笑うと冬弥も頷く。
存外負けず嫌いだよなぁ、と小さく笑った。


「…やったね!!」
ぴょん、とリンが跳ねる。
とり損ねたレンが悔しそうに地団駄を踏んでいた。
ちなみにリンの顔にはもう墨が塗られていて、1勝1敗といった感じである。
「やっぱセンスあるな、リン」
「えっへへー、ありがと!」
「…すまない、レン」 
「冬弥のせいじゃないよー!大丈夫、次頑張ろ!」
各々相方に声をかけてから向き直った。
「次はオレからだ。油断してっとすぐ負けるぞ」
「む。油断とかしないし!」
「そうか、よっ!」
カコン、という音が響く。
慌てたようにレンが打ち返し、リンがぴょんっと跳んだ。
が、打ちそこねそうになったのを彰人が代わりに打ち返す。
「…しまっ…!」
「っしゃっ!!」
焦った顔の冬弥が羽子板を振るが、間に合わず羽根が地に落ちた。
「すっごぉい!」
「まあな」
キラキラした目のリンに息を吐きながら答える。
墨を持ち…はたと気づいた。
…これは冬弥に落描きをしなければならないのでは、と。
「…彰人」
覚悟を決めたようにこちらにやってきた冬弥が目を瞑る。
それはまるでキスを待っているようで。
「?!ん、んぅ?!」
思わずキスをする。
「リンー!ジュース飲みに行こうぜ」
「はぁい!」
リンとレンが立ち去る音が遠くでした。
「…ぁ…彰人…!」
「…わり」
曖昧に笑って少し声を荒らげる冬弥の顔に墨をつける。
たまに、本当にたまにはこういうのも悪くないかもしれない、と思いながら。


「新年も変わらず仲良しだよねー!」
「仲良しってか…まあいいんじゃねぇかな」
(冬弥の顔に書かれた彰人の名

それは仲良しっていうかなんというか!)

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