ワンドロ・桜/ホワイトデー

『今年も桜の季節がやって参りましたが、やや開花時期は遅く…』
そこまで聞いて彰人は立ち上がる。
行ってきます、と言いかけた所で、2階から「彰人!」と呼ぶ声が降ってきた。
「…んだよ」
「お姉ちゃんに向かってその態度は何。…ね、ス○バの桜タンブラーとシフォンケーキ買ってきて」
睨んだもののそれを物ともしない絵名があっさりと言う。
嫌な顔をしてみせてもどこ吹く風で。
「はぁ?なんでオレが」
「いいでしょ?…どうせ彰人のこと、相棒くんから貰ったバレンタインのお返し、何も考えてないに決まってるんだから。スタ○の春ギフトなら贈り物にぴったりだしね」
「だぁから、勝手に決めんなっつー…!」
「んじゃ、よろしくー」
声を荒らげる彰人に、絵名はひらひらと手を振る。
こうなれば行かなければいけないのは確定項だ。
仕方ない、とため息を吐き、彰人は玄関に向かった。


春だ、と言えどまだ少し肌寒い。
厚手のコートにすればよかったと襟を立てながら街中を見渡せば、ブルーのリボンが彩られていて。
そういえばホワイトデーなんて行事もあったな、と思う。
「…彰人」
待ち合わせ先には冬弥が先に来ていた。
駆け寄ると彼は僅かに笑みを浮かべる。
「わりぃ、待たせた」
「俺も今来たところだ」
心配するな、と言わんばかりの冬弥にまったく、と息を吐いた。
二人並び、目的地に向かおうとした彰人を冬弥が止める。
「…寄りたい所があるんだが」
「?珍しいな、どうした?」
冬弥のそれに思わず首を傾げた。
彼なら用事くらいは待ち合わせの前に済ませてくる気がするのに。
「美味しいパンケーキの店があるんだ。桜色が鮮やかで、ベリーが3種乗っているらしい」
「…ん?」
「…彰人と、一緒に行きたいと思って色々調べていたんだが…迷惑だっただろうか?」
こてり、と冬弥が首を傾げる。
揺れる髪に可愛いな、と思った。
「まさか。オレは嬉しいけど、なんでまた…」
その問いに冬弥はきょとりと目を瞬かせる。
「今日はホワイトデーだろう?」
簡単な答えになんだ、冬弥も同じだったか、と彰人は笑う。
彼もちょっとしたホワイトデーのデートプランを考えていたようだ。
「んじゃ、オレはお前にコーヒーとアフォガードのパンケーキ、ご馳走してやる。バレンタインのお返しに、な」
「…!彰人」
「オレも同じこと考えてたんだ、お前ばっかり良い顔させてたまるかよ」
ニッと笑い掛ければ、冬弥は、そうか、と小さく微笑む。
それは確かに幸せそうで。
こういうのもたまには良いか、と、そう思ったのだった。

少し早い春の、ちょっぴり非日常な甘い話。


本日、ホワイトデー前夜!

「あっ、○タバ」
「…?寄りたいのか?パンケーキ食べたのに?」
「…色々あんだよ…」

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