類冬ワンドロ・花壇/プランター

先程植え替えたばかりのプランターを両手に持ち、類は教師から指定された場所に向かった。
と、意外な人物を見かけておや、と思う。
神山高校の花壇、赤紫の花が咲き誇るそこにに何やら重そうな本を持って立っている男が一人。
「やぁ、冬弥くん」
「…神代、先輩」
声をかけると彼はふわりと微笑んだ。
「ふふ、こんなところで君に会えるとは嬉しいねぇ」
「?…そうでしょうか」
「ああ。君とは図書室くらいでしか会わないからね」
こてりと首を傾げる冬弥にそういうと、なるほど、と言う。
学年が違うせいもあり、彼が所属している図書委員の担当日くらいにしかあまり会えないのだ。
外で会うなんて稀である。
「何をしていたんだい?」
「…花を…サクラソウを見ていました」
類のそれに冬弥が微笑んでそう返した。
彼の前で揺れていたのは赤紫色のサクラソウだ。
「ああ、今年は綺麗に咲いてくれたからね。冬弥くんが見てくれて嬉しいよ」
「俺、この色好きです」
微笑む類に笑みを見せながら唐突に冬弥が言う。
赤紫は類のメッシュとよく似ているが…あまり深い意味はないんだろう、と「そう」と言った。
単純に彼が好きなのがこの色なのだ、と言い聞かせて。
「最近良く目につくようになってしまって…。後はサクラソウ自体も好きです」
「…へぇ?」
「…俺の想いとよく似ているので」
「…ん??」
綺麗な笑みを浮かべる彼に類は首を傾げた。
だがそれにはお構い無しで、それでは、また、と冬弥が会釈をする。
類の頭の中は先程の言葉でいっぱいで。
なぜ、彼は…そんなことを?
「…?」
ふ、と彼が去った花壇の隅に本が置かれていたのに気付く。
プランターを地面に置いてから拾い上げた。
丁寧に栞の挟まれたその本は植物図鑑で。
栞の先、サクラソウのページには原産国や開花時期に加えて花言葉も添えられていた。
「…あぁ、なるほど。やられたねぇ…」
類は独りごち、口角を上げる。
サクラソウ、その花言葉は…【初恋】。
肩を揺らし、類はパタンと図鑑を閉じた。
さて、彼に花言葉のお返しに行かなければ!!


(サクラソウが揺れる先、彼の花言葉が実ったのかは…みんな知っている事実だと思うけれどね!)

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