司冬ワンライ・お見舞い/懐かしい本

咲希は、妹は病弱な少女だった。
だからだろうか。
司が人の変化に敏感になったのは。
「…冬弥」
「…?はい」
不思議そうに冬弥が振り向く。
その顔は少し、赤く見えた。
珍しく図書室に寄った司に、嬉しそうに「昔、咲希さんのお見舞いにって、持っていきましたよね」と出してきた本を抱きしめた冬弥が首を傾げる。
「…?あの、司先輩?」
「…冬弥、お前…熱無いか?」
「…!!」
司の言葉に、彼は目を見開いた。
やはりか、と司は冬弥を座らせる。
「まったく、お前は!無茶しすぎだ!!」
「…すみません」
しゅんとする冬弥に司はくしゃりと頭を撫でた。
カーディガンを渡すとほんの少し申し訳なさそうにしながらもそれを受け取る。
保健室に連れて行ってやるべきだろうが…もう放課後だ。
少し休んでから送って行くか、と思う。
昔、熱が出ても倒れるまではピアノやバイオリンの練習に明け暮れていたことを考えれば素直に休む、という判断ができるようになったのは良い傾向だろうか。
…と。
「…冬弥?」
司のカーディガンを羽織り、くすくすと冬弥が肩を揺らす。
「…いえ。…前にもあったな、と思いまして」
その言葉に、司はそういえば、と上を向いた。
あの時は、咲希のお見舞いに行った帰りで、ふらふらした冬弥を無理矢理引き摺って帰ったっけか。
今は流石にそこまではしないけれど。
「…先輩、俺のお見舞いにも毎日来てくれましたね」
「当たり前だろう?可愛い幼馴染なのだしな」
「人探しの本を二人でやって、知恵熱出したり」
「…あったなぁ…」
「結局、先輩のお母さんに怒られたんですよね。人の家にお見舞いに行っておいて余計に具合悪くさせちゃって、って」
「…あの時はすまなかった」
楽しそうな冬弥に司は謝る。
あの時、彼は親に「練習に支障が出る」と怒られたらしいのだ。
「いえ。俺は先輩が来てくれて嬉しかったです。…それに」
「それに?」 
「先輩は、あの懐かしい本みたいに…俺を見つけてくれた人だから」
「…なんだ、それは」
見つけてきた本を抱きしめながら冬弥が笑む。
そんな彼の髪を撫でてやりながら、司は囁いた。


冬弥の具合が悪いことくらい、懐かしいあの本より簡単に分かることさ

だって、オレはお前の【恋人】なんだからな!

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