ワンドロ・映画館/デート

なあ、デートしようぜ。
そう言った彰人に、きょとんとした顔をするだけだったのは、冬弥が彰人のそれに慣れているからだ。
「…どこに行くんだ?」
「映画館」
「…?映画…?」
あっさりした答えに冬弥はますます首を傾げた。
今まで二人で出かけた内、映画館に行ったことはなかったからである。
「…何か、観たい映画でもあるのか?」
「いや?特に」
不思議そうな冬弥に思わず彰人は笑った。
ん、と手を差し出す彰人に、冬弥が己の手を乗せてくる。
眩しく光って場面が変わった。
着いた先はいつものセカイ。
ただし、いつもとは場所が違った。
「…ここ、は」
「レンが言ってたんだよ。セカイには、持ち主の気分で上映内容が変わる映画館があるって。ま、B級映画ばっからしいけどな。なんでも、二人一緒じゃなきゃ見れないんだと」
「…それが、ここ…か?」
その問いに彰人は笑う。
面白いだろ?と。
二人の目の前にあるのは古びた劇場だ。
街でよく見るようなビルの映画館とはまるで違う。
ただ。
それが。
とても美しく映った。
と、冬弥が小さく笑う。
「?なんだよ」
「ああ。前に読んだ小説で、古い映画館が出てくるものがあるんだが、そこもB級映画ばかり流していたな、と。そこは時間帯で変わるんだが」
「へぇ」
「そこも、主人公と仲間の内1人だけだった。それを…思い出して、な」
「いいんじゃねぇの?そーいうのも」
デートっぽくて、と笑いながら言えば、冬弥もそうだな、と微かに笑んだ。

明かりが煌めく暗闇へと二人、誘われて行く。



退廃に暮れた劇場の隅で

二人だけのデートをしよう

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