ワンドロ・パンケーキ/料理

「なぁ、彰人。パンケーキを作らないか」
わくわくした目でそう言う冬弥に、彰人はまた何を言い出すんだ、と呆れた目を向ける。
冬弥の突拍子もない発言は割と慣れっこで、今回も「またか」とは思った。
しかしまた、何故。
「別に構わねぇけど。なんでまた」
「この前借りた小説に、パンケーキの作り方が載っていてな。少し食べてみたくなった」
「…小説に、ねぇ」
目をキラキラさせる冬弥は可愛らしく、まあ良いか、と肩を竦める。
彰人としては許可を出したつもりだったのだけれど、冬弥は、駄目か?と首を傾げた。
「…彰人と、美味しいパンケーキを食べたかったのだが」
「悪いとは言ってないだろ」
しゅんとする冬弥に笑いかける。
最近は本当に分かりやすくなった。
まったく、可愛らしいのだから!
「やろうぜ、パンケーキ作り」
手を差し出す彰人に冬弥はぱあ、と表情を明るくさせ、それを取った。




カチャカチャとボウルと泡立て器が音を立てる。
「牛乳が少し足りない…」
「細かいなぁ、大丈夫だろ」
「お菓子作りはそういう細かさが大切なんだぞ、彰人」
「へーへー」
ムッとする冬弥に軽く答え、彰人は再び粉の袋を傾けた。
混ぜて焼くだけ、という手軽さだからだろう、料理に慣れない冬弥でも簡単に作ることができるそれにほっとする。
彰人とて美味しいものを食べたいのだ。
…別に冬弥がゲデモノ作りだとは思わないけれど。
彼は料理をしていたことがないだけで、上手いとは思うのだ。
「彰人、卵割れた」
「お、上手い上手い」
嬉しそうに報告してくる冬弥に彰人も笑みを浮かべる。
小さい子のようで何だか可愛らしく見えた。
フライパンに出来た液を流し入れ、ジュウ、と音を立てるそれに二人で歓声を上げる。
「ん、味見」
「…ん…」
少し端を切り取り、冬弥の口元に持っていくと彼が小さく口を開けた。
はふ、と息を吐き出し、いくらか咀嚼していた冬弥が首を傾げる。
「…甘さが、足りない気がするのだが」
「そうか?パンケーキはそんなもんだろ。甘かったらホットケーキになるし」
彰人ももぐもぐと口を動かしながらひっくり返した。
そうか、と納得した冬弥の口に、軽く口付ける。
「っ、彰人?!」
「代わりにオレから甘さをやるよ」
「…」 
ブスくれる冬弥に言えば、彼は呆れた顔をしながら小さく笑った。
 

パンケーキ自体、甘くなくても


二人が甘ければそれで良いのです!!


「…あの二人仲良しだよねぇ」
「今の二人に近づいちゃだめだよ、KAITO。当てられちゃうから」

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