類冬ワンドロ・体力テスト/金魚草

二年生の教室の前、珍しいお客さんがいて類はおや、と目を見張った。
「やぁ、こんにちは、青柳くん。司くんの教室は一つ隣だよ」
そこにいたのは同じショーキャストメンバーである司の、一つ年下の幼馴染である冬弥で。
類とはあまり接点がないから、教室を間違えたのかとそう言ってみたが彼はふるふると首を振った。
「…今日は神代先輩に用がありまして」
「…僕に?」
あっさりと言われたそれに類は目を丸くする。
深い知り合いでもない、まして彼は1年、こちらは2年だ。
一体何だって。
「…暁山から聞いたんです。先輩、体力増強スーツを作った、とか」
頷いてみせた冬弥がそう言う。
彼が口にしたのは以前類が発明したスーツのことだ。
まあ見た目がロボットみたいになってしまったのだが…それは置いておいて。
「ああ、作ったよ。それがどうかしたかい?」
「実は、来週末に体力測定がありまして。あまり体力に自信がないので…付け焼き刃にはなるんですけど」
「…なるほど?」
少し恥ずかしそうに言う冬弥に類は笑う。
なるほど、彼は真面目なようだ。
「そんなに難しそうなのかな?」
「推測ではやはり無理なんです」
「…金魚草みたいなことを言うねぇ」
眉を寄せる冬弥に類は思わず肩を揺らす。
こんなに嫌そうな冬弥は初めて見た気がして、なんだか少し珍しかった。
「…金魚草。確か花が金魚みたいな形をしているんですよね」
「おや、青柳くんは花にも詳しいんだね」
「少し図鑑で見たことがあって」
「なるほど?それで、スーツの話だけれど…」
「…はい」
心配そうな冬弥に、貸すのは構わないよ、と答える。
途端にホッとした顔をした。
「けれど、僕にメリットがないと思うのだけれども、それはどう考えているかな?」
「…ええと」
真面目な彼に少し意地悪を言ってみる。
どう返してくるか気になった。
別にどんな答えでもスーツは貸すつもりだけれど。
…と。
「…では、体力テストが終わってから、先輩の実験に付き合います。それでは駄目ですか…?」
「んんん??」
思っていた答えとは違うそれに思わず聞き返す。
全く、彼は斜め上だ。 
「…いいよ、明日取りにおいで」
「あっ、ありがとう御座いま……」
「Du bringst meine guten Vorsätze ins Wanken」
礼を言いかける冬弥にそう囁く。
え、という顔をする彼にひらりと手を振った。


窓際で泳ぐ金魚草。
体力テストの結果とその後の話は、その花だけが知っている。

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