ワンドロ・ヤンデレ/痕

冬弥はライブの時全体的に緩い服を着ることが多かった。
見た目にギャップがある、とファンからは評判のようだったが本人たちは知ったことではなくて。
周りから「なんでそんな緩い服着てるの?」と問われたことがあるようだが、本人はただ一言、「彰人が選んでくれたからな」と答えただけだった。
「嫌なら別にいいんだぞ?」
一度、たった一度だけそう言ったことがある。
彰人が似合うと思っていても本人が嫌なら、無理してそれを着る必要もないと思うからだ。
だが、冬弥は微笑むばかりで。
「彰人が、俺のためと選んでくれるのが嬉しいからな」
可愛らしく笑う冬弥に「そうかよ」と返したが内心は嬉しかった。
綺麗な冬弥を着飾らせる事ができるのは彰人にとっても幸せだったのである。
自分だけの冬弥。
最高で最上の、相棒。
お人形さんのように美しい冬弥を自分好みに着飾らせて隣に置く。
自分が惚れたその声で隣で歌ってくれる。
それ以上の幸せがあるだろうか。
…と。
「…緩いと、痕が見えるんだ」
綺麗に、冬弥が笑う。
ちらりと指で服の襟を下げてみせる、そのキレイな肌に。
「…っ!」
彰人は思わず目を見張る。
痕が残っていた。
…昨夜、彰人が付けた痕が。
それが愛おしいと冬弥が笑う。
「彰人に愛されてると感じて、嬉しくなる」
「…はっ」
痕をなぞって笑む冬弥に、彰人は小さく笑い、手を引いた。
「…彰人?」
不思議そうに冬弥が首を傾げる。
気に入らねぇ、と低く呟くと冬弥が柔らかく笑った。
それも気に入らなくて、あ、と口を開く。
昨日の痕を上書きするように強く吸い付いた。
…昨日の自分が付けた痕に、嫉妬をしたから。
冬弥の目に映るのは自分だけで良いのだ。
例え、昨日の自分であったとしても今の自分を見ていてほしかった。
映画館の小さな箱に閉じ込めて自分だけのものにしたい気持ちを止められない。
それが出来ないなら、せめて。
「…愛してる」
届かないように、低く、小さく呟く。
ドス黒い愛の言葉を。
ヤンデレ、なんて陳腐な言葉では済ませられない。
それは度を越した独占欲。


(愛があるなら構わないんじゃないかって、誰かが笑った)

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